第1420回 ローラン・ブラン監督辞任(2) サミール・ナスリ、ジャーナリストへの暴言で処分

 昨年3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■サミール・ナスリ、試合後のミックスゾーンで暴言

 スペイン相手に低調な試合で敗れてしまったフランスであるが、このスペイン戦後、事件が起こる。それは試合後、フランスを代表する通信社であるAFP通信社の記者に対し、サミール・ナスリが暴言を吐く。
 ナスリはこのスペイン戦は後半の65分にフローラン・マルーダに代わって出場、持ち味のスピードは見せることができたが、有効な攻撃には至らなかった。試合終了後、ミックスゾーンにいたAFP通信の記者が、ナスリに試合後の感想を求めたところ、回答を拒否したばかりか、ジャーナリストに対する侮蔑的な発言をし、最後に「ジャーナリストは俺のことを育ちが悪い、と書くんだろう」と発言した。この発言はミックスゾーンにいた多くの他社の記者も目撃し、AFP通信だけではなく、他社もこぞって試合の翌日、すなわちフランスの敗退と同時に報道した。
 選手のマスコミ対応はプロ選手であるならば基本として学ばなくてはならないことである。日本の読者の皆様ならば、片上千恵に代表されるメディアトレーナーの存在をご存じであろうから、このような問題が発生したことは信じられないであろう。しかし、現実に衆人環視の中で、今季プレミアリーグを制覇したチームであるマンチェスター・シティの主力選手が発言したのである。

■次々と発覚した規律違反

 フランスサッカー協会はこのナスリの発言を問題視し、早速事情聴取に乗り出したところ、新たな問題が次々に発覚した。大会期間中から選手間や選手と首脳陣の間で衝突があったことが明るみになったのである。
 ヤン・エムビラはスペイン戦は先発出場したが、79分にオリビエ・ジルーと交代した際にベンチの前で迎えるローラン・ブラン監督との握手を拒否している。ジェレミー・メネスは同じくスペイン戦で76分にラフプレーでイエローカードをもらっており、そのプレーそのものについては以降の処分はないが、試合終了後、主将のGKウーゴ・ロリスと口論になっている。そして、ハテム・ベンアルファはスウェーデン戦での敗戦の後、ブラン監督と口論になった。
 ロリスは主将であり、この欧州選手権では好守を見せ、選手としては最も活躍したと評価できるであろう。しかしながら、主将としてのカリスマ性、リーダーシップには疑問符がつき、メネスから暴言を浴びせられたのであろう。これはブラン監督も同様である。

■黄金世代のリーダーと目されたナスリ

 これらの選手はいわゆるフランスサッカーの黄金世代とアンダーエイジのころ目された世代であり、2008年の欧州選手権、2010年のワールドカップで連続してグループリーグで敗退してもカリム・ベンゼマ、ナスリなどの黄金世代が主力となる2012年以降は再び上昇気流に乗り、自国開催の2014年の欧州選手権では優勝を狙えると期待された選手たちである。その中でもナスリはリーダー格であると目されていたが、精神的に成長できないまま、スペイン戦の2日後に25歳の誕生日を迎えた。イングランド戦ではチーム唯一の得点を決めているナスリであるが、この得点直後、ジャーナリストに対し人差し指を立てて「黙れ」とジェスチャーしていることもこの事件の伏線となったと言えよう。
 これら一連の事実を重く受け止めたフランスサッカー協会はスペイン戦の2日後にはナスリを2年間の代表からの追放、メネス、ベンゼマ、ベンアルファに対しても4試合の出場停止という処分を検討した。

■歴史を繰り返したフランス代表チーム

 振り返ってみれば、2年前の南アフリカ、練習をボイコットした選手たちのうち、首謀者であったニコラ・アネルカは18試合、パトリス・エブラは5試合、フランク・リベリは3試合、ジェレミー・トゥーラランは1試合と、それぞれ出場停止の処分を受けている。その結果、アネルカは代表から姿を消してしまった。
 フランスは2年前に続き、チームの内部分裂により、惨敗し、世界にまたも恥をさらしてしまったのである。(続く)

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