第245回 中東サッカーの新しい風・カタール

■移籍市場で注目を集めたマルセイユ

 前回の本連載では4年ぶりに欧州チャンピオンズリーグに復活したマルセイユを取り上げたが、今季の移籍市場で最も注目を集めたのがこのマルセイユであった。現役のフランス代表であるフィリップ・クリスタンバルをバルセロナから呼び戻し、エジプト代表のミドをアヤックス・アムステルダムから獲得した。また、パルマの中田英寿の獲得に乗り出し、世界中の注目を集めることになった。しかし、最もファンを驚かせたのが、アルジェリア代表のジャメル・ベルマディの放出であろう。マルセイユのレベルのクラブであればベルマディ級の選手の移籍は日常茶飯事である。それではなぜこの移籍がファンを驚かせたのであろうか。

■ジャメル・ベルマディのカタールへの移籍理由

 それはベルマディの移籍先が中東のカタールのクラブチーム、アル・イテハドであったことである。今までも中東のクラブにフランス人選手が移籍したことは珍しくはない。ディディエ・シス、ドミニク・ロシュトーなどのビッグネームが中東のクラブに所属したことがある。また、マルセイユからは昨年までフランス代表で活躍したフランク・ルブッフも同じカタールのアル・サイードに移籍し、その後釜としてクリスタンバルをバルセロナから呼んでいる。しかし、これまでは引退勧告を受けた選手が年金リーグである中東に移籍するという構図であった。ところがベルマディは27歳で現役のアルジェリア代表であり、昨季後半はプレミアリーグのマンチェスターシティでも活躍している。なぜベルマディが年金リーグに去っていくのか、ファンが不思議に思うのは当然である。
 実はベルマディの移籍は本人がイスラム教徒であり、中東での生活を望んでいたからである。フランスが宗主国であったアフリカのエリアには様々な土着の宗教が存在するが、圧倒的にイスラム教を信じている人々が多い。ベルマディにとってサッカー選手と成功するならばマルセイユだけではなく、欧州にいくつもの選択肢が存在する。しかし、彼は自らの信じるイスラム教のメッカである中東の生活を望んだのである。

■フランスリーグから4人の選手、1人の監督がカタールへ

 さて、今季カタールに移籍したのはマルセイユのルブッフとベルマディだけではない。昨年のワールドカップ、今年のコンフェデレーションズカップでカメルーン代表として活躍した、ピウス・ヌデイエフィもスダンからアル・ウェーダに移籍している。ヌデイエフィはスダンから2年契約を提示されただけではなく、リール、ストラスブールというフランス国内のクラブ、さらにはイングランドのトットナム、ボルトンというクラブからもオファーを受けながらも、中東のクラブを選択したのである。このアル・ウェーダの監督も代わったばかりである。かつてマルセイユなどの監督を歴任し、昨季はアジャクシオの監督を務めて、2部降格を逃れたローラン・クルビスが、今シーズンからアル・ウェーダの監督に就任している。
 さらに、昨季1部に復帰し、快進撃を続けたニースの原動力となったカバ・ディアワラもカタールSCに移籍しており、フランスリーグから4人の選手がカタールのクラブに移籍したことになる。

■イスラム教徒の中東への移籍がフランスリーグにもたらす影響

 クラブの強化のためにこれらの選手を獲得したり、オイルマネーによる高い年俸にひかれて峠を越えた選手が移籍したりするだけではなく、ベルマディのようにイスラム教徒の選手がカタール行きを望む流れが一般的になれば、カタールに限らず中東はフランスリーグで活躍する選手の新たな活躍の場となる。高年俸を保証する近隣のイングランド、イタリア、スペインのクラブにトップレベルの選手が流出するだけではなく、イスラム圏のアフリカ出身の選手が中東に流出することはフランスリーグの地盤沈下に拍車をかけることになるであろう。
 さらにカタールの代表監督にはフランス人のフィリップ・トルシエが就任した。今後「フランス語を話すイスラム教徒の選手」がカタール国内に急速に増えていくとすれば、日本代表監督の座を辞してから日本国内のクラブから声がかからなかったトルシエが、次の就職先まで考えてこの国の代表監督に就任したのかもしれない。(この項、終わり)

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