第590回 ワールドカップ回顧(5) 所属クラブが対照的なトーゴとチュニジア

■スター選手がフランスから他国へ流出したトーゴ

 前回のワールドカップで旋風を巻き起こしたセネガル、実に23人の登録選手中21人がフランスのクラブに所属し、開幕戦でディフェンディングチャンピオンのフランスを1-0と破り、調子の波に乗って準々決勝に進出した。
 今回大会でもまたフランスはフランスから独立したアフリカのチームと同じグループに入った。今回のフランスの対戦相手はトーゴ、内政が不安定であるが、セネガル同様、中央アフリカの国である。
 トーゴ最大のスターはメッス、モナコに所属していたエマニュエル・アデバイヨルである。若くしてメッスに所属し、10代でありながらゴールを量産する。そしてワールドカップ予選でも予選突破の原動力となったが、今年初めにアルセーヌ・ベンゲル監督が率いるアーセナルに移籍してしまう。また、MFのクアミ・アグボーもフランスとはゆかりが深い。フランスとトーゴの二重国籍を有するアグボーは1997年にマレーシアで開催されたワールドユースではフランス代表のメンバーとして優勝を果たし、オセール、グルノーブルでも活躍したが、昨年夏にベルギーのベベレンに移籍してしまった。

■9人中1部リーグ所属は1人だけ

 アデバイヨルがイングランドに、アグボーがベルギーに去ってしまった後、フランスのクラブからトーゴ代表に入っている選手は大物の選手がおらず、ほとんどは2部以下のクラブに所属している。9人のフランスのクラブに所属している選手のうち、1部のクラブに所属しているのはメッスの控えGKのコッシ・アガサだけである。アガサの昨シーズンのメッスでの出場機会はわずかに2試合、それでも代表チームに招集されれば正GKであり、今大会は予選、本大会とも全ての試合にフル出場している。
 それ以外の8人の選手も2部のチームに所属している選手は6人、3部に相当するナショナルリーグに所属する選手が1人、さらに6部に相当するDHリーグのクラブに所属する選手も1人いる。DHリーグでプレーしているのは大西洋岸地域のJAポワレ・シュル・ビに所属しているリッシュモン・フォルソン、それでも本大会では全3試合に出場している。フォルソン以外に3試合に出場したフィールドプレーヤーはフル出場を果たしたガンガンのモハメド・カデルとブレストのムスタファ・サリフである。サリフは2部リーグのブレストでの昨季は先発わずかに2試合、しかしながらトーゴ代表では立派な主力選手である。

■クラブでの実績と実力が不足し、グループリーグ敗退

 前回大会で旋風を起こしたセネガルの21人のフランスのクラブの選手は強豪チームの主力として活躍していた。しかし、今回のトーゴの選手はフランスの2部リーグのクラブでプレーするのが精一杯であった。このようにクラブレベルで活躍することなく、コンスタントに試合に出場できるのが代表チームだけというのは日本の状況に似ており、十分な準備をした相手には歯が立たなかったのである。

■7人全てが1部のクラブに所属するチュニジア

 一方、7人の選手が全て1部リーグのクラブに所属していたのがチュニジアである。ロジェ・ルメール監督が率いるチームはアフリカ最強と言う前評判もあり、スペイン、ウクライナの欧州勢のいずれかを倒して決勝トーナメントに進出するのではないかという期待も高まった。しかし、フランスのクラブに所属する選手の活躍はそれほどでもなかった。7人のうち、レギュラークラスの選手はDFのカリム・ハギ(ストラスブール)とFWのジアド・ジャジリ(トロワ)の2人だけであった。ボルドーに所属し、右サイドバックとして昨季のフランスリーグのベストイレブンに選出されたダビッド・ジェマリ(ボルドー)も第1戦のサウジアラビア戦に出場しただけであった。
 このサウジアラビア戦は本大会では珍しいアラブ系の国同士の対戦となり、全世界のアラブ社会が注目した。この試合、先制点を挙げたのはジャジリであり、試合の最優秀選手にも選ばれている。この試合は2-2のドローとなったが、フランスのクラブに所属する選手が2大会連続してグループリーグで敗退したチュニジアにとってのベストゲームを演出したのである。(続く)

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