第71回 5人のセミファイナリスト

■大詰めを迎えた欧州のカップ戦

 今シーズンから新方式となった欧州カップ。5月を迎え、残るはチャンピオンズリーグの準決勝(5月2日、3日、9日、10日)と決勝(5月24日)、UEFAカップの決勝(5月17日)だけとなった。フランス勢は本連載の第68回でも紹介したとおり、チャンピオンズリーグの二次リーグではマルセイユ、ボルドーがいいところなく最下位で敗退、新たなサッカーの聖地スタッド・ド・フランスでの決勝は夢と消えた。
 一方、UEFAカップではランスが大活躍し、カイザースラウテン(ドイツ)、アトレチコ・マドリッド(スペイン)、セルタ・ビゴ(スペイン)などを破って準決勝ではアーセナル(イングランド)と対戦した。4月6日のハイベリーでの第1戦、赤と黄色のファーストジャージを身につけたランスは大健闘し、0-1で第2戦に望みをつないだ。
 フェリックスボラールは今年はランスの活躍に加え、フランスカップで決勝に進出したカレーの進撃で何度も「血と黄金」の二色に染まり、4月20日も2500人のアーセナルサポーター以外は見渡す限り赤と黄色。試合は伝統の赤い胴と白い袖のユニフォームのアーセナルのフランス人、ティエリー・アンリが前半終了間際に先制、ランスもパリサンジェルマンの一員として訪日し大活躍したパスカル・ヌマが73分に同点に追いつく。しかし、3点を取る力はなく、逆に終了間際にナイジェリア代表のカヌーに2点目を決められ万事休す。昨年のマルセイユに続く決勝進出はならなかった。

■チャンピオンズリーグを席巻しているスペイン勢

 フランス勢が久しぶりにベスト8に入ることができなかったチャンピオンズリーグは準々決勝が欧州各地で行われ、ベスト4が出そろった。準決勝に進出したのはバレンシア、レアル・マドリッド、バルセロナのスペイン3チームとドイツのバイエルン・ミュンヘン。今シーズンからの新方式になったとはいえ、同一国から3チームが準決勝に進出したのは今回が初めてである。
 スペインからはこの3チーム以外にマヨルカ(予備戦でノルウェーのモルドに敗退)を含め4チームがチャンピオンズリーグに出場していた。しかし、スペインはこれまでもチャンピオンズカップ、チャンピオンズリーグの歴史の中で唯一準決勝に2チームを送り込んだことのある国なのである。しかも1959年のレアル・マドリッドとアトレチコ・マドリッド、そしてその翌年はレアル・マドリッドとバルセロナという具合に2回もベスト4の半数を占めたことがあるのである。
 1986-87シーズン以来13年ぶりにベスト4に残ることができなかったイタリア勢に代わるスペインのクラブのチャンピオンズリーグでの活躍は、バルセロナがチャンピオンズカップ、アトレチコ・マドリッドがカップウィナーズカップ、レアル・マドリッドがUEFAカップと全ての欧州三大カップで決勝進出した1986年以来の偉業である。気の早いファンは5月24日の決勝は1960年のチャンピオンズカップ準決勝の再現、すなわちレアル・マドリッドとバルセロナの対決を期待している(この時はレアル・マドリッドがホーム、アウェーとも3-1で連勝している)。

■ベスト4の全チームにフランス人選手が所属している

 1990年代は欧州三大カップの決勝にフランスのクラブが7回も進出し、今年のようにミモザの季節にフランスのクラブの活躍を見られないのは一抹の寂しさを感じるが、チャンピオンズリーグのセミファイナリストの顔ぶれを見て心の中でほくそえんだフランス人は少なくはないはずである。実はこれらの4チームにはいずれもフランス人選手が所属しているのである。まずレアル・マドリッドにはクリスチャン・カランブーとニコラ・アネルカ、バルセロナにはフレデリック・デウ、バレンシアにはジョスリン・アングロマ、そしてバイエルン・ミュンヘンにはビセンテ・リザラズと、いずれもフランス代表歴のある選手がそろっている。
 ボスマン判決以降、欧州域内における選手の流動が活性化し、外国人選手の存在は珍しいことではなく、今回ベスト4に残ったビッグクラブにおいても多くの外国人選手が活躍している。年間予算の規模において欧州で最高のクラブはマンチェスター・ユナイテッドであるが、それに続く2位はレアル・マドリッド、3位はバルセロナであり、バイエルン・ミュンヘンも7位、バレンシアは17位と、今年もビッグクラブが上位を占めている。当然選手も欧州からだけではなく、レアル・マドリッドのロベルト・カルロス(ブラジル)、バルセロナのリバウド(ブラジル、昨年の欧州最優秀選手)、バレンシアのクラウディオ・ロペス(アルゼンチン)、バイエルン・ミュンヘンのサンタクルーズ(パラグアイ)と、南米からもスターが集まっている。
 このようなドリームチームの中でフランス人選手が各チームで活躍していることは、フランスのクラブの成績はともかくとして喜ばしいことである。この5人の中でワールドカップ経験者はカランブー、リザラズの二人、アングロマは37回の代表歴を誇るが、代表での活躍は96年の欧州選手権まで、デウ、アネルカはワールドカップ以降に代表で活躍する若手選手である。またフランスリーグで優勝経験があるのはアングロマ、カランブー、デウの三人。アングロマは黄金時代末期のマルセイユを支え、カランブーは1994-95のナントの優勝に貢献、デウは記憶に新しい1997-98のランスの初優勝を支えた。リザラズはボルドーで活躍した当時はなかなかマルセイユの壁を破ることができず、アネルカはその力が評価されるころには海を渡っていた。

■アングロマとリザラスに注目

 さて、レアル・マドリッドとバルセロナが話題の中心になるセミファイナリストであるが、フランス人選手の活躍という点ではアングロマとリザラズに注目したい。アングロマは34歳だが、レアル・マドリッドやバルセロナに比べてバレンシアの選手層が薄いため、ほとんどの試合に出場している。またリザラズは準々決勝ポルト戦のホームでの第2戦は負傷のため欠場したが、バスク地方出身でスペインの首都マドリッドとの対戦を楽しみにしているはずである。
 5月24日のスタッド・ド・フランスでの決勝は、今シーズン最後に国内で行われる試合である。このシーズン最後を飾る試合で「ビッグイヤー」を手にするのは、5人のフランス人のうち誰なのであろうか。

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