第2841回 二冠を狙う欧州選手権(3) 唯一の新人、ジュール・クンデ

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■昨秋以降は新人の起用が控えめなディディエ・デシャン監督

 カリム・ベンゼマの5年半ぶりの復帰に注目が集まる欧州選手権のメンバーであるが、唯一の新人のジュール・クンデについて紹介しよう。前々回の本連載で紹介した通り、昨秋にフランス代表の活動が再開して以来、ディディエ・デシャン監督は新人を積極的にテストしてきたわけではない。特にメンバー発表前最後の試合となる3月のワールドカップ予選、困難ではない相手との対戦もある中で、新人を誰も選出せず、さらに昨年9月以降に代表に呼んだ新人は1人しか招集しなかった。二冠を狙うため、そして代表としての活動が制約される中で、現実的な選択肢を選んだといえる。

■オリンピック代表の可能性もある1997年以降生まれの選手

 さらに、欧州選手権特有の事情もある。欧州選手権は東西冷戦の中で生まれた大会であり、オリンピックにおける東側のステートアマに対抗し、オリンピックと同年に行われるプロが出場できる大会という意味がある。新型コロナウイルスの感染拡大で欧州選手権もオリンピックも1年延期され、フランスは欧州選手権だけではなく、オリンピックにも参加する。若手選手はオリンピックで37年ぶりの優勝を目指すが、この候補メンバーにはダヨ・ウパメカノ、エドゥアルド・カマビンガ、マーカス・テュラムという昨秋以降フル代表に加わったメンバーだけではなく、キリアン・ムバッペ、ウスマン・ダンベレというメンバーも年齢的には対象となる。そういうメンバーの中で、21歳のクンデはフル代表に招集されることはなく、オリンピックに専念するのではないかと思われていたところを抜擢された。
 なお、今回の欧州選手権のメンバーでオリンピックの出場資格(1997年1月1日以降生まれ)を持つのはムバッペ、ダンベレ、テュラム、クンデの4人である。

■ボルドーでプロデビュー、セビリアでヨーロッパリーグを制覇したジュール・クンデ

 クンデはベナン人の父とフランス人の母の間にパリで生まれ、少年時代にボルドー近郊のランディラに移転している。14歳でボルドーの下部組織に入り、19歳の時にプロ契約し、2018年初めに1部リーグにデビューしている。ストッパーとして広い守備範囲を誇り、ボルドーでレギュラーの座を獲得し、1年半後の2019年にはスペインのセビリアに移籍、ヨーロッパリーグの優勝に貢献している。

■最初のスパーリングマッチはニースでのウェールズ戦

 欧州選手権直前の親善試合としてフランスは6月2日にニースでウェールズ、8日にスタッド・ド・フランスでブルガリアと対戦する。これらの試合でクンデをどのようにデシャン監督がテストしていくのか注目を集めた。
 ウェールズは本大会に出場するが、ブルガリアは予選で敗れている。ウェールズはグループリーグではイタリア、スイスと対戦するため、フランス相手に手ごたえをつかんでおきたいところである。ウェールズとはこれまで親善試合でしか対戦したことがなく、フランスの3勝1分1敗、直近の対戦は2017年11月、ロシアワールドカップ予選突破を決めた直後にスタッド・ド・フランスで対戦し、2-0と勝利している。翌年のワールドカップでフランスは優勝しており、縁起のいいスパーリングパートナーである。
 フランスの先発メンバーであるが、GKはウーゴ・ロリス、DFは右からバンジャマン・パバール、ラファエル・バラン、プレスネル・キンペンベ、ルカ・エルナンデス、MFは4人であるが、低い位置にコランタン・トリッソ、中盤の右にはポール・ポグバ、左にはアドリアン・ラビオ、高い位置のトップ下にはアントワン・グリエズマン、FWは2トップで右にムバッペ、左にベンゼマという陣容である。ファン待望のベンゼマが先発出場を果たした。
 3バックのチームが多くなる中で、フランスは伝統の4バックを堅持している。クンデはベンチ入りを果たしたが、バラン、キンペンベというレギュラーのストッパーに代わって交代出場するのか、あるいはデビューはスタッド・ド・フランスでのブルガリア戦まで待つのか、フランスのキックオフで試合は始まったのである。(続く)

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