第549回 2005-06フランスカップ(3) 宿敵対決に盛り上がるフランス

■ボスマン判決以前のフランスを代表するクラブ

 パリサンジェルマンとマルセイユという夢の対決となったフランスカップ決勝、フランス国内はこれまでのいかなる対戦よりも注目が集まっているがその理由を紹介しよう。
 まず、このところリヨンの独壇場となっているフランスのクラブシーンであるが、1980年代から1990年代にかけてフランスを代表するビッグクラブの対決である。つまりボスマン判決によって欧州のクラブは新たな段階に入ったが、金銭に物を言わせて世界中から有力選手を集めるのではなく、外国人選手の人数制限がある中で自国代表選手を集め、準代表チーム的なチーム編成をして国内外のタイトルを争った最後の時代のフランスにおける有力チームである。もしもボスマン判決がなければ、両チームの現在は異なっていたもののなっていたであろう。

■欧州カップ決勝で勝利したマルセイユとパリサンジェルマン

 そしてリヨンとの対比で言うならば、フランスのクラブで欧州カップの決勝で勝ったことがあるチームはマルセイユとパリサンジェルマンだけなのである。マルセイユは1993年のチャンピオンズリーグ決勝でACミランを下し、パリサンジェルマンは1996年のカップウィナーズカップでラピッド・ウィーンを下している。マルセイユは八百長疑惑のためタイトルを剥奪され、カップウィナーズカップは欧州カップの再編のため消滅してしまった。しかしながら、両チームが欧州の頂点を極めたことは事実であり、さらに近年の状況を見る限り、リヨンを筆頭とするフランスのクラブが欧州の頂点を極める可能性が低いという現実も受け入れなくてはならない。

■3月に起こったハプニング

 さらにこれまで本連載で何度も紹介してきたが、両チームのライバル心は並々ならぬものがある。政治経済の中心であるパリに対するサッカーの都マルセイユの意地が名勝負を繰り返してきた。数多くの名勝負とともに、グラウンドの内外で多くのハプニングも起こしてきており、その最も新しいものが、今年3月5日のリーグ戦で起こった「マルセイユ控え選手事件」である。本連載第532回でも紹介しているが、パルク・デ・プランスでのゲームの際にマルセイユ側がホームチームのパリサンジェルマンにセキュリティ面の条件を提示するが、パリサンジェルマンの回答内容が不十分ということでマルセイユは控え選手をパリに遠征させる。結局スコアレスドローという結果になったが、リーグ側は両チームから勝ち点1を剥奪している。

■フランスカップ決勝で初の対決

 前回の本連載でも紹介したとおり、この両チームがフランスカップの決勝という大一番で対決したことがないことはフランスサッカーの七不思議に選ばれるような事実である。日本の皆様ならば2002年のワールドカップ決勝でブラジル-ドイツという欧州と南米を代表するチームのワールドカップにおける初対決を実現したことを思い出される方もいらっしゃるであろう。
 あるいは2003年と2005年の日本シリーズを連想された方も少なくないであろう。2003年の日本シリーズはかつての阪神・南海定期戦の再現となる阪神とダイエーが対戦し、2005年の日本シリーズでは阪神・毎日定期戦の再現となる阪神とロッテの対決となった。定期戦を行っていたライバル同士の戦いは例年以上の盛り上がりを見せたが、2003年は定期戦時代に終始優勢だったダイエーが接戦を制し、阪神・毎日定期戦は阪神の選手を毎日が大量に引き抜いたことから因縁の定期戦と言われ、阪神が本拠地甲子園に宿敵を迎え撃つ形で行われていたが、毎日が優勢で、2005年の日本シリーズでは阪神が止めを刺されるような惨敗を喫した。しかし、日本の野球ファンが望んでいるのはBK杯を争奪した阪神・阪急定期戦の再現であろう。1936年に誕生し、これまで59回、160試合にわたって行われた定期戦は西の早慶戦と称されるにふさわしい戦いであり、サッカー流の言葉で言うならば「クラシコ」と言うべき存在である。しかしながらBKも取り壊され、広大な駐車場となり、スキャンダル続きで地位は低下、そして肝心の阪神と阪急の姿には昔日の面影はない。
 そしてこの阪神と阪急が日本シリーズで顔を合わせたことがないのと同様、マルセイユとパリサンジェルマンもフランスカップの決勝で対決したことがない。日本の皆様には阪神と阪急が日本シリーズで激突した場合を想像していただければ、今回のフランスの盛り上がりをよくご理解いただけよう。(続く)

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