第923回 年明けの象徴、フランスカップ(2) シライン、23年ぶり史上4回目の偉業

■緊張の初戦を勝ち抜いたリール

 フランスのサッカー界の蹴初めともいえるフランスカップのベスト32決定戦は年明け早々の1月2日から始まった。主に土曜日の3日と日曜日の4日に行われたが、1月2日に1試合だけが行われた。
 先陣を切って1月2日に行われたのは5部に相当するCFA2部のサンジュヌビエーブ・ボワと1部のリールの対戦である。サンジュヌビエーブ・ボワはパリ近郊のエソンヌ県の人口4万5000人の都市である。エソンヌ県は日本の茨城県と友好関係があることから、親しみのある読者の方も多いであろう。
 このサンジュヌビエーブ・ボワの運動公園はメインスタンド以外にサブグラウンドも5面備えている。また、運動公園のある住所もレオ・ラグランジュ通り、レオ・ラグランジュとは1938年にフランスが1回目のワールドカップを開催した際のスポーツ長官の名前である。ラグランジュは巨大スタジアムを造るよりも、青少年のためのスポーツ施設をたくさん作ることのほうが重要であると主張して、巨大スタジアムの建造を見送ったと言う逸話は「フランス・サッカー実存主義」の第2回で紹介したとおりである。
 1600人の観衆でスタンドは満員となった。リーグ上位の常連であるリールは今季も6位で前半戦を折り返した。そのリールも、緊張が続き、無得点が続く。リールが先制点を奪ったのは前半終了間際の45分である。前半を1-0とリードして折り返したリールは71分にオウンゴールでリードを広げ、ロスタイムに3点目を奪って3-0と完勝し、フランス中が注目する今年最初のトップレベルの試合をものにしたのである。

■レユニオンのジャンヌ・ダルク、ツールで大敗する

 そしてその翌日にはベスト32決定戦の内の大多数となる24試合が行われた。その24試合の内最初にキックオフされたのが14時30分開始のジャンヌ・ダルク-ツール戦である。ジャンヌ・ダルクは前回の本連載で紹介したとおり、レユニオンのチームであり、海外県のチームとして14年ぶりにベスト32決定戦に進出した。対戦相手のツールは2部リーグのチームであり、ジャンヌ・ダルクのホームゲームであったが、ホームでの開催を返上し、ツールで試合を行った。本土で2部リーグのチーム相手に金星を狙ったレユニオンのチームであったが、前半だけでツールは3ゴール、結局7-1とツールが大勝し、レユニオンの夢は初夢どまりとなったのである。

■7戦連続でアウエーで勝ち抜いてきたシライン

 そして今回のベスト32決定戦の最大の注目となった7部に相当する県リーグのシラインであるが、2部のクレルモンとの対戦となった。シラインは2回戦から参戦したが、2回戦から8回戦まで7試合連続でアウエーゲームとなり、アウエーで7戦連勝してきた。1部リーグのチームですらフランスカップでは最高でも6試合しか戦わず、決勝戦は中立地である。したがってアウエーで7連勝と言うことは極めて珍しいことであろう。そしてシラインはフランスカップ8試合目にして初めてホームで戦う。シラインの本来の本拠地はオスカー・アイスラー競技場である。オスカー・アイスラーとは人口2000人のこの町がこれまでに唯一輩出したフランス代表選手の名前である。アイスラーはフランス代表25試合、そして7試合で主将を務めた選手であり、RCパリの選手として3度フランスカップを獲得している。そして初めて選手契約をしたのがこのクラブであった。しかしオスカー・アイスラー競技場は収容人数に制限があるため、近郊のアグノーに5000人の観衆を集めて試合を行ったのである。

■2部のクレルモン相手に前半の2点のビハインドを逆転

 相手のクレルモンは2部で12位のチームである。そのツールは前半の14分と34分に得点をあげて、2-0とリードしては前半を終える。しかし、ここから奇跡が起こった。シラインは63分に1点返し、72分に同点、そして81分に勝ち越し、85分に追加点、終わってみれば4-2と逆転勝利を収める。
 これまでのフランスカップの長い歴史の中でリーグのレベルが5段階違うチームを下したのはわずか3回、6部に相当するDH(ディビジョン・オヌール)のエブリーが1部のツーロンを下した1986年以来23年ぶりの偉業となったのである。(続く)

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