第1389回 2012年フランスカップ決勝(1) もう1つの決勝戦、2012年大統領選挙決選投票

 昨年3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■対照的なプロフィールのリヨンとクビリー

 前回まで紹介したリーグカップから2週間後、スタッド・ド・フランスにまた大観衆が戻ってきた。4月28日にフランスカップの決勝が行われる。本連載の第1382回から第1386回で紹介したとおりリヨンと3部に相当するナショナルリーグのクビリーが決勝に進出した。
 史上5チーム目となる3部に相当するリーグ以下から決勝に進出したクビリーは今大会の注目の的である。これまで紹介しているとおり、近年のフランスカップではしばしば上位陣を倒しており、実績を積んでの決勝進出である。今季も準々決勝でマルセイユ、準決勝でレンヌを破った。
 一方、リヨンは2000年代に入ってからのリーグ7連覇のイメージが強いが、2008年にリーグとフランスカップの二冠を獲得してからは実はタイトルとは無縁、過去3シーズンはタイトルを獲得することができず、久しぶりのタイトル獲得なるかと思われた2週間前のリーグカップ決勝では延長の末、マルセイユに0-1と敗れている。

■フランスカップ決勝前後に行われる大統領選挙の2度の投票

 そして、今年は5年に1度の大統領選挙の年である。本連載第1381回では大統領選挙の第1回投票の前の情勢について紹介したが、日本の皆様もご存じのとおり、4月22日に行われた第1回投票には10人の立候補者の中で争われ、過半数を獲得した候補はいなかった。第1回投票で得票率28.63%の社会党のフランソワ・オランド候補と、得票率27.12%の現職で国民運動連合のニコラ・サルコジ候補という上位2候補による決選投票が5月6日に行われる。
 フランスカップ決勝には伝統的に現職大統領が臨席するが、今年の場合、現職のサルコジ大統領だけではなく、翌週の決選投票を控えるオランド候補もスタッド・ド・フランスで観戦すると表明、まさにもう1つの決勝戦が繰り広げられたのである。

■クビリー支持を明確にしたフランソワ・オランド、中立を表明したニコラ・サルコジ

 右派のサルコジ候補は今回の選挙戦の争点として経済成長を訴えているのに対し、左派のオランド候補は雇用創出、富裕層への課税強化を政策として掲げている。サルコジ候補はオランド候補の政策が実現すれば、高給取りであるフランスのスポーツ選手は国外に流出してしまうと反論、決選投票での逆転を狙う。サルコジ候補がビッグクラブであるならば、オランド候補は予算規模も少ないアマチュアクラブ、まさに今回のフランスカップ決勝と同じ構図である。
 さらにオランド候補はルーアン出身である。ルーアンといえば本連載の読者の方はクビリーが準々決勝でマルセイユを迎えた場所であることを思い出されるであろう。オランド候補は決勝戦を前に同じノルマンディのクビリー支持を打ち出したのである。
 一方、サルコジ候補はパリ近郊の出身でありパリサンジェルマンのファンとして知られているが、今回の決勝戦を前に中立的な立場をとると表明している。そして重要なことを忘れてはならない。もう1つのファイナリストであるリヨンからも市長が観戦に来る。リヨン市長はジェラール・コロンである。コロン市長は今回春の叙勲で旭日中綬章を受章したことから日本の皆様もよくご存じであろうが、社会党員である。もう1つの決勝戦で現職のサルコジ大統領は厳しい戦いとなったのである。

■政財界の要人が一堂に会した今年のフランスカップ決勝

 サルコジ、オランド両候補だけではなく、両陣営から多くの政治家がこのフランスカップ決勝のスタンドに陣取り、テレビカメラもピッチの中だけではなく、スタンドのスーツ姿の政治家の姿を映し出すことが多いのが今年の特徴である。決選投票1週間前とあって土曜日の夜のパリ近郊に左右の政治家が終結した。
 このように政界はスタッド・ド・フランスが選挙戦の舞台となった。しかし、フランスの大物財界人の中にはこの夜スタッド・ド・フランスに背を向け、TGVに乗って一路ロンドンを目指し、WiFiの設置された車内から重要なビジネスレターを送り続けた姿もあった。経済政策に限界を感じている国民の姿を象徴しているといえよう。(続く)

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