第123回 パリサンジェルマン対マルセイユ(1) 最大かつ唯一のライバルとの対戦

■欧州有力リーグの看板カード

 どのリーグにもファンの注目を集める看板カードが存在する。欧州の有力リーグで言えば、スペインのレアル・マドリッド対バルセロナ、イタリアのインテル対ACミラノ、イングランドのアーセナル対マンチェスター・ユナイテッド、ドイツのバイエルン・ミュンヘン対ボルシア・ドルトムントがこれにあたるであろう。一方、各クラブのファンが宿命のライバルであると目すチームがどのようなクラブにも存在する。欧州では宿命のライバルというのは実力的に拮抗していることよりも、むしろ地理的な要因に負うところが多い。例えば、その国の中の首都と第二の都市の争いであること。レアル・マドリッドとバルセロナの関係はこれに相当するであろう。あるいは、ダービーマッチと言われる同一地域内のチームの戦いもまた注目を集める。ミラノを本拠地とするインテルとACミラノの戦いはミラノダービーとして長年にわたり名勝負を繰り広げてきた。そしてこれらの戦いが実力上位で伯仲する関係であれば、その戦いはさらに熱くなる。それがライバル激突というものである。

■他の欧州有力国に例を見ないパリサンジェルマンとマルセイユの関係

 さて、フランスにおいてダービーとして最も注目を集めるのはリヨン対サンテエチエンヌの一戦であろうが、首都と第二の都市の戦いというと、パリのパリサンジェルマンとマルセイユのオランピック・ド・マルセイユの戦いがこれに相当する。この戦いは両チームならびにフランスサッカー界にとって特別な戦いである。両チームとも大都市が本拠地でありながら、その都市唯一のプロサッカーチームである。つまり、レアル・マドリッドにとってバルセロナはライバルであるが、アトレチコ・マドリッドもライバルである。ACミラノにとってインテルもライバルであるが、ユベントスもライバルである。ところが、パリサンジェルマンもオランピック・ド・マルセイユも同一市内にライバルはなく、お互いが最大にして唯一のライバルとなるのである。首都とそれに続く都市にそれぞれ一つしかプロチームが存在しないというケースは欧州の有力国でフランスだけであり、両チームの激突は国中の関心を集めるのである。

■首都パリに対抗心を燃やすマルセイユ

 このライバル心に油を注いでいるのが中央集権国家フランスにおける首都パリに対するマルセイユの対抗心とプライドである。マルセイユは市の歴史もクラブの歴史もパリのそれとは比べ物にならない。マルセイユに町が誕生して2600年以上、クラブも1899年創立と100年以上の歴史を誇る。一方、首都パリの歴史はそれよりも浅く、紀元前3世紀にシテ島にパリジー族が定住したのがパリの起源と言われている。そしてパリサンジェルマンも1部リーグからパリのチームが姿を消したのを契機に、市民の間で署名運動が起こり、近隣のサンジェルマン・アン・レーのチームとパリのチームを合併して1973年に人工的につくられたチームであり、その歴史はわずか30年である。都市もクラブもフランスの中心はパリではなくマルセイユであるというマルセイユの自負と、首都でありフランスの中心であるパリのプライドが激しく衝突してきたのである。

■首位に肉薄する両チームが直接対決

 ただ、問題は両者の実力である。1980年代終盤から1990年代前半にかけてマルセイユは5連覇を果たし、国内では独走という時代であった。パリサンジェルマンもモナコ、ボルドーなどとともに二番手グループを形成していたが、マルセイユの最大のライバルではなかった。しかし、マルセイユの連覇を止めたのはパリサンジェルマンであった。1993-94のシーズンを制し、マルセイユは2位に終わる。ここからマルセイユは低迷し、タイトルとは無縁となった。一方のパリサンジェルマンも1996年にはカップウィナーズカップを制覇し、フランスのクラブとして初めて欧州三大カップを獲得したり、リーグカップやフランスカップを獲得したりしたが、リーグ戦ではそれ以来優勝するに至っていない。パリサンジェルマンとマルセイユが覇権を争ったシーズンはないに等しい。
 ところが、今年は久しぶりにパリサンジェルマン、マルセイユとも好成績を収め、10月19日と20日に行われた第11節を終了した段階でパリサンジェルマンとマルセイユは勝ち点20で並び。勝ち点21の首位オセール、2位のニースを勝ち点1差で追っており、この試合次第では首位に踊り出る可能性もある。
 10月26日、パリサンジェルマンがパルク・デ・プランスに最大のライバルを迎えたのである。(続く)

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