第426回 雪中の名門対決、デビュー戦を飾ることができなかった中田浩二

■ようやくめぐってきたデビュー戦

 昨年末にマルセイユへの移籍話が浮上した中田浩二。労働許可証などの問題もあり、デビューが遅れていたが、日本のファンの皆様も待ちに待っていたデビュー戦を3月6日、アウエーのサンテエチエンヌ戦でようやく迎えることになった。マルセイユについては前回の本連載で紹介したとおり、年が変わってから順位を5位から2位に急浮上させた。そして労働許可証の関係で試合出場が可能となったタイミングのサンテエチエンヌ戦は、ちょうどカメルーン代表のサロモン・オランベが出場停止となっているため、中田に先発出場のチャンスがやってきた。

■ライバルたちが総崩れで迎えた日曜日のサンテエチエンヌ戦

 さらに、テレビ中継の関係で第28節ではこのサンテエチエンヌ-マルセイユ戦だけが日曜日に行われ、他の9試合は金曜日と土曜日に行われていたが、これらの試合結果はマルセイユのファンを喜ばせるものであった。まず、勝ち点8差の首位のリヨンは金曜日にカーンで敗れる。3位のリールはコルス島でバスティアに敗れ、4位のモナコはホームでメッスとスコアレスドロー、5位のオセールもランスで敗れている。上位5チームのうち、マルセイユ以外の4チームは欧州カップを戦っており、その影響が現われた形と
なったが、マルセイユにとって今シーズン残されたタイトルは国内外あわせてもこの国内リーグだけである。リーグだけに専念できるマルセイユにとって逆転優勝は夢ではない。

■激しい雪、氷点下5度、ファビアン・バルテスが出場拒否

 しかし、ライバルが軒並み総崩れとなり、チャンス到来というこの試合も、前回の本連載で紹介した第24節のトゥールーズ戦同様、試合前に事件が起こった。まず、ある程度予期できていたとはいえ、サンテエチエンヌのジェフロワ・ギシャール競技場が降雪に見舞われ、寒暖計の目盛りは氷点下5度を記録した。例年この時期に降雪で試合が延期になることは珍しくない。そしてサンテエチエンヌもマルセイユ同様、残された国内外でのタイトルはリーグ戦だけである。すなわち、試合を延期しても日程的には余裕があったはずであったが、チケットが前売りで完売するという人気カードで、3万5000人の観衆が集まっていること、テレビ中継が予定されていること、このような営業的な観点からキックオフを15分遅らせて試合を強行することになった。
 そしてもう一つのアクシデントは試合開始前の練習中にマルセイユのGKのファビアン・バルテスに対し、スタンドから物が投げこまれ、バルテスは出場を拒否する。バルテスの代役のGKには今季まだ1試合しか出場経験のないジェレミー・ガバノンを起用した。

■左サイドでフル出場、黒星デビュー

 キックオフは本連載第422回で紹介したマリ代表の監督のサリフ・ケイタによって行われた。ケイタはサンテエチエンヌの象徴であるが、マルセイユにも在籍したことがあり、このカードには欠かせない人物である。
 そして注目のマルセイユの布陣であるが、フィリップ・トルシエ監督は前回紹介した4バックシステムではなく、3バックシステムを復活させる。両サイドのMFは非常に守備的で実質的には5バックとなった。中田は左サイドを務め、雪の中でのデビューとなった。冬になれば雪が降り積もる日本からやってきた中田であるが、オレンジのボールを使用したものの、試合中も断続的に雪が降り、サイドラインが雪で隠れてしまっては実力を発揮することができない。中田の左サイドにはほとんどボールが回ってこず、マルセイユの攻撃はシルバン・ヌディアイのいる右サイドに偏重する。試合を支配したのはサンテエチエンヌであり、マルセイユは守備的な陣形を取っていることもあり、なかなか攻撃の形を作ることができない。34分には代役GKのガバノンが、サンテエチエンヌのフレデリック・ピキオンヌを倒してしまう。パスカル・フェインデゥーノが落ち着いて決めて先制点。後半に入っても流れは変わらず、82分には追加点を奪われる。2点差となってマルセイユの攻撃の起点であるヌディアイに代えてローラン・バトルを投入するが、マルセイユは0-2で敗れ、首位接近のチャンスをいかすことができなかった。
 厳寒の激しい雪の中で中田はフランスデビューを飾ることができなかった。しかし、中田が一員となったマルセイユはリーグ優勝8回、カップ優勝10回の名門、そしてデビュー戦の相手サンテエチエンヌはリーグ優勝10回、カップ優勝6回という歴史を誇る。この歴史の重みを感じて活躍することを期待したい。(この項、終わり)

このページのTOPへ