第13回 フランス、オセアニアに初遠征(1) 難航した選手招集

■発端となったアルセーヌ・ベンゲル発言

 ワールドカップまで200日となり今年最後の国際試合はメルボルンでの豪州戦である。
この豪州戦を前に両チームの選手招集が難航した。この発端は日本でもおなじみのアーセナルのフランス人監督アルセーヌ・ベンゲルである。自らをフランス・サッカー界のオサマ・ビンラディンと称するベンゲルは、9月のチリ戦で敗北したあたりから各国クラブの日程が詰まっているため長期にわたる遠方地での国際試合にはアーセナルの選手を提供しない、と異義を申したてたのである。
 かつて「ベンゲルのチーム(モナコ)からフランス代表には選ばれない」という時代が長く続いた。例外はフランス代表主将のマニュエル・アモロスと1回だけ選出されたエマニュエル・プチである。それに対する報復というわけではないだろうが、現在アーセナルにはフランス代表に定着している選手がパトリック・ビエラ、ロベール・ピレス、ティエリー・アンリ、シルバン・ビルトールと4人いる。彼ら抜きにはフランス代表も苦しい。6月のコンフェデレーションズカップでの優勝もアーセナルのガンナーたちの存在あってのことである。

■両チームのほとんどの選手は欧州のビッグクラブに所属

 このベンゲル発言は波及し、欧州の主要な11のクラブが今回の豪州-フランス戦に選手を派遣することに疑問を感じはじめた。フランスの選手が欧州の主要なクラブに所属していることは当然であるが、実は豪州もベストメンバーとなるとそのほとんどは欧州の主要クラブに所属する選手である。最終的に豪州代表となった22人の選手のうち欧州のクラブに所属する選手は20人、残りの2人のうち1人は日本のJリーグ、豪州国内リーグ所属の選手はわずか1人である。したがって、豪州-フランス戦をメルボルンで行うということは欧州のナショナルチーム同志の試合をメルボルンで行うことにほぼ等しい。しかもフランスリーグは11月11日前後に10日間の休養をいれたが、両国の代表チームのメンバーのうちフランスリーグに所属している選手はごくわずかである。
 このベンゲル発言に同意する欧州のビッグクラブの動きをFIFAも無視することはできず、「1クラブあたりこの試合に派遣する選手は1人」というような妥協案も提案された。しかし、1クラブ1人となると先述のアーセナルのように4人のフランス代表を抱えている例や、リーズのようにマーク・ビデゥガとハリー・キューウェルのように2人の豪州代表を抱えている例もある。
 パリから飛行機で片道23時間の移動というのは選手にとっても大きな負担である。11月27日に東京でのインターコンチネンタルカップに出場するバイエルン・ミュンヘンのビシャンテ・リザラズ、ビリー・サニョルの2人は2週間の間に2回のアジア・オセアニア地域への遠征が重なることになり、早々と豪州遠征を辞退している。

■選手からの要求に苦悩する豪州協会

 一方、豪州協会はもう一つ悩みを抱えている。来年のワールドカップに向けてた南米予選の5位チームとのプレーオフの件である。11月18日と25日にホームアンドアウエー方式で南太平洋を横断することになり、欧州から長旅で呼び寄せた選手がメルボルンでフランスと親善試合を行い、さらに2試合行うというのはハードスケジュールである。
 結局、各クラブからの申し出を両国協会は受け入れず、強行突破し、南米5位チームとのプレーオフの第1戦を20日に順延し、バイエルンの2人を除くベストメンバーを11月初めにようやく揃えることになった。しかしながら、相変わらず火種は残っており、3週間に渡って豪州代表に拘束される選手たちが協会からの手当の金額に対し不満を示し、ストに入る、と今度は言い始めた。

■国際試合の開催が危ぶまれる時代

 ようやく、欧州のビッグクラブを説得して選手を集めたフランス協会であったが、今度は対戦相手のメンバーが試合会場に現れるかどうかを心配してFAXで確認する始末となった。
 10月のアルジェリア戦では政治的な問題もあり、無事に試合が開催されるかが危ぶまれたが、今回の豪州戦も無事に選手が集まるかが危惧されたのである。かつてインターコンチネンタルカップについて毎年その開催を心配しなくてはならない時代があった。それが現在ではナショナルチームの試合の開催を心配しなくてはならない時代がやってきたのである。おそらくこの傾向は続き、ワールドカップが現在のテニスのフェデレーションズカップのような姿にならないとは限らないであろう。(続く)

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