第134回 本年最終戦、ユーゴスラビアに快勝(3) 国際試合男エリック・カリエール

■13年ぶりにユーゴスラビアと対戦

 フランスとユーゴスラビアの最初の対戦は1926年のことである。両国の過去の対戦成績はフランスの8勝7分10敗である。25回も対戦しているが、最後の両国の戦いは1989年4月29日。このことは2つの歴史を意味している。まず、この試合は後にフランス代表歴100試合以上を数えるディディエ・デシャンの代表デビューの試合であったということ。そして、ユーゴスラビアが民族問題から解体したのが1992年であり、この時に対戦したのは解体前の旧ユーゴスラビアであるということ。ワールドカップ出場がほぼ絶望となる試合で代表デビューをしたデシャンも主将として世界の頂点と欧州の頂点に立ち、代表から退いてすでに2年経つ。また、ユーゴスラビアも5つの国に分裂し、今回対戦するユーゴスラビアは1992年にスタートした新ユーゴスラビアであり、新体制として初めてフランスと対戦する。フランスは旧ユーゴスラビアから独立したスロベニア、クロアチアとはすでに対戦しており、今まで新生ユーゴスラビアとの対戦がなかったことは意外である。

■メンバーの離脱が目立つフランス

 ワールドカップではグループリーグで敗退したフランスとワールドカップに出場すらできなかったユーゴスラビア、不本意なワールドカップイヤーだったが、最終戦は有終の美を飾りたいと両チームとも感じているはずである。
 ところがフランスはメンバーがなかなか揃わない。まず、ロベール・ピレス、ダビッド・トレズゲ、ジブリル・シセは復調せず、招集メンバーから外れた。また、招集したメンバーにも負傷者が続出した。シドニー・ゴブーがリーグ戦で負傷したため、ジャック・サンティーニ監督は今年4月のロシア戦以来代表から離れていたマンチェスター・シティのニコラ・アネルカを招集する。ところが、この代役出場という状況が誇り高き問題児には気に入らなかったようで、アネルカは代表合流を拒否し、所属チームでの2試合出場停止処分に至った。結局、ランスのダニエル・モレイラがメンバー入りする。また、1999年10月のアイスランド戦以来、44試合連続して代表の試合に出場していたパトリック・ビエイラも負傷で離脱。ビエイラの記録が途絶えたのは残念であるが、ビエイラの代わりには今季1部に昇格してきたソショーのブノワ・ペドレッティが初めて代表入りした。ソショーからの代表入りは1992年5月のフランク・シルベストル以来10年ぶりのことである。さらに、ビリー・サニョルも週末のブンデスリーガの試合で負傷し、フィリップ・メクセスがクレールフォンテーヌに駆けつける。そして、試合直前に大黒柱のジネディーヌ・ジダンの出場が危ぶまれる。モナコのゲームメーカーのルドビック・ジウイを2年ぶりに代表チームに呼ぶ。モレイラ、ペドレッティ、メクセス、ジウイとも国内のクラブで活躍する若手選手であり、サンティーニらしい選択である。

■ジダン抜きで3-0と快勝

 このように大幅なメンバー不足の中で今年最後の試合に臨むメンバーはGKファビアン・バルテス、ストッパーはマルタ戦と同じマルセル・デサイーとウィリアム・ガラス、両サイドのDFはリリアン・テュラムとジェレミー・ブレッシュ、守備的MFにはエマニュエル・プチとクロード・マケレレ、両翼に開いた攻撃的MFは右にエリック・カリエール、左にオリビエ・カポ、2トップはティエリー・アンリとスティーブ・マルレである。
 サンティーニ新体制になっても常にジダンをチームの中心に据え、ジダン不在の試合はロジェ・ルメール時代のウルグアイ戦以来のことである。不安感が高まるキックオフであったが、韓国での悪夢を忘れさせたのはジダンの代役になれなかった男、カリエールであった。12分には同じ右サイドのテュラムからのパスを受けて難なく先制点を決める。そして後半の立ち上がりにはボールを持ち込んだプチからパスを受け、左足でシュートし2点目。3点目は70分。左サイドのマルレからのセンタリングをアンリがシュートし、ユーゴスラビアのGKがこぼしたところをカポが決める。

■カリエール活躍、ジダンの控えから国際試合男へ

 新生ユーゴスラビアとの最初の対決は3-0とフランスが完勝したが、特筆すべきはカリエールの活躍であろう。ジダンの陰に隠れ、代表デビューは遅く、昨年のコンフェデレーションズカップ。代表入り後も出場機会に恵まれず、ワールドカップのメンバーから外れている。しかし、代表10試合で5得点。1試合あたり0.50得点という数字は群を抜いており、比肩するのはトレズゲだけである。出場時間まで考慮するとカリエールは87分ごとに1得点であり、トレズゲの105分ごとに1得点をはるかにしのぐ素晴らしい記録である。また、カリエールは代表の試合だけではなく、所属クラブでも国際試合で抜群の得点力を誇る。欧州チャンピオンズリーグには昨季と今季出場したが、11試合出場で6得点を記録している。2002年を締めくくったのはワールドカップに出場できなかった国際試合男のカリエールであった。(この項、終わり)

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