第163回 フランス、チェコに完敗(3) ジダン伝説の崩壊、歴史的敗戦

■ディディエ・デシャンの記録と並んだマルセル・デサイー

 2月12日のスタッド・ド・フランスに集まった観衆は57,366人。ちょうどオープン5周年を迎え、フランス代表は26試合目となるが、この数字は2000年4月のスロベニア戦の59,652人を下回る最低の数字となった。昨年11月のユーゴスラビア戦も最低観客動員を更新してしまうのではないかと関係者は心配したが、このときはかろうじて59,958人を動員している。ユーゴスラビア、チェコとも強豪国であるにもかかわらず、観客動員が不振なことはフランスにおけるサッカーの人気低下を物語っているだろう。
 しかし、欧州諸国で代表チームの試合に平均3万人以上の観客を動員できるのは数か国である。人気が低下したとはいってもブルーの試合、そしてジダン伝説の再現を見に来たのである。
 フランス代表の布陣はGKウルリッヒ・ラメ、DFはクラシックなフラット4でリリアン・テュラム、ウィリアム・ガラス、マルセル・デサイー、ビシャンテ・リザラズであり、注目は103試合目の代表戦となり、ディディエ・デシャンの持つ出場試合数記録に並んだデサイー、ワールドカップ以来の復帰となるリザラズという2人のベテラン選手。そしてテュラムも代表デビューはジダン伝説が誕生した1994年8月のチェコ戦であることを忘れてはならない。守備的MFはクロード・マケレレとエマニュエル・プチ、2人の攻撃的MFは右にシルバン・ビルトール、左にジネディーヌ・ジダン、注目の2トップのFWはスティーブ・マルレとティエリー・アンリとなった。

■西欧のビッグクラブに所属するチェコの選手

 一方のチェコは西欧のビッグクラブに所属する選手が勢ぞろいする。先発メンバーで国内リーグに所属するのは3人だけ。22人の先発メンバーで両チームのGK(フランスのラメ:ボルドー、チェコのペトル・チェフ:レンヌ)だけがフランスリーグに所属する選手であった。チェコの選手で注目すべきは22歳で背番号10のトーマス・ロシツキーである。ロシツキーはドイツのドルトムントに所属し、フランス戦直前に昨年のチェコの最優秀選手に選出されている。またロシツキーに次ぐポイントを集めたFWのヤン・コラーもドルトムントの選手である。もちろんユベントスに所属するパベル・ネドベドも先発メンバーに名を連ねている。

■前半7分、ジダンの痛恨のミス

 フランスにとってこの試合は非常に残念なものになった。空席だらけのスタジアムを見てモチベーションが下がったわけではないだろう。7分にはジダンがチェコの選手に決定的なパスを贈り、これをチェコの右サイドバックのズデネク・グリゲラがシュート、ラメはボールに触ることはできたが、止めることはできず、先制点を許す。もしジダンが9年前の代表デビュー戦でこのようなプレーをしていたならば「世界最高のサッカー選手」にはなっていなかったであろう。まさかの失点の後、反撃ののろしも上がらず、フランスには得点チャンスもない。30分過ぎに失点のお膳立てをしたジダンがシュートを放ったのがファーストシュートというお粗末な試合内容。ブーイングの中で前半が終了する。
 後半開始時に3人の選手が交代出場する。マケレレに代わりパトリック・ビエイラ、ビルトールに代わりロベール・ピレス、そしてマルレに代わりダビッド・トレゼゲが投入された。これで前回紹介した3人の復帰組がピッチの上で勢ぞろいし、アンリ-トレゼゲの2トップが実現したのである。
 1年ぶりのブルーのユニフォームとなるピレスは頻繁にポジションチェンジを行ったが、うまく機能しなかった。一方、トレゼゲも58分に初シュート、ゴールの枠からは外れる。全体的にプレーの精度を欠くフランスは中盤を完全にチェコに支配される。60分にガラスが放ったシュートがフランスにとってこの試合唯一の得点チャンスであったであろう。その直後の62分にはリバプールではまだ控えの21歳のミラン・バロスに2点目を許す。アンリをジブリル・シセに代えて反撃を狙ったが、シセは9年前のジダンにはなれなかった。フランスは0-2と完敗してしまったのである。

■歴史的な完敗でサッカー人気回復に赤信号

 ジャック・サンティーニ監督となって6試合目で初めての黒星、スタッド・ド・フランスでは3回目の敗戦となる。しかし、歴史をひもとくと、ホームで2点差の敗戦は1992年8月のブラジル戦以来、その年最初の試合での敗戦は1992年2月のイングランド戦以来という11年ぶりの敗戦であった。試合前に組み合わせ抽選が行われた地元開催のコンフェデレーションズカップもようやくTVで中継されることが決まったというのに、サッカー人気の回復という点でもこの日の完敗は痛い。完敗の翌日のオフィスやキャンパスの話題は前日のサッカーではなく、翌々日の6か国対抗ラグビーのイングランド戦が中心であった。3月末まで続く6か国対抗の期間はサッカーにとっては今年も我慢の季節になりそうである。(この項、終わり)

このページのTOPへ