第213回 コンフェデレーションズカップ2003 (2) 日本戦勝利、名将誕生の予感

■日本とは過去10年間で4度の対戦

 フランス代表にとって今回のコンフェデレーションズカップの大一番となった日本戦。日本とは過去10年間で4回も対戦しており、フランスにとって最も対戦歴の多い国である。かろうじて3勝1分という成績を残しているが、手の内を知られている。グループリーグ突破のかかったこの試合で、ジャック・サンティーニ監督は日本に知られていない選手を起用する。

■日本に知られていない選手を先発に起用

 試合前の急勾配のジェフロワ・ギシャールのピッチ上で試合前のラ・マルセイエーズを歌った選手はGKファビアン・バルテス、DFはミカエル・シルベストル、ビリー・サニョル、ウィリアム・ガラス、ジャン・アラン・ブームソン、MFは守備的な位置にオリビエ・ダクールとウスマン・ダボ、両サイドにジェローム・ロタンとロベール・ピレス、FWはシドニー・ゴブーとスティーブ・マルレである。
 この中で昨年のワールドカップの先発メンバーだった選手はGKファビアン・バルテスくらいである。また、23人のメンバーに入っていた選手もシルベストルとサニョルだけである。一方、ブームソンとダボが代表デビュー、しかもダボは代表初招集である。代表デビューが1試合に2人も試合開始の段階で2人もいるというのは相当歴史をさかのぼらなくてはならない。また、代表歴が10試合以上というのは半数以下の5人であり、これも相当思い切った選手起用である。
 世界各地に張り巡らした国際委員の情報網を持つ日本協会もさすがにこのメンバーの情報は十分に収集できなかったであろう。

■アシスト王ロタン、主将ピレスが攻撃の起点

 さて、試合は初戦のコロンビア戦同様、フランスは相手に球を持たせる戦術をとる。中一日という日程に加え、猛暑と豪雨が同時にやってきた天候のため、選手の疲労を考えるならば、セオリー通りであるが、攻めないことには勝利はなく、決勝トーナメント進出はありえない。
 コロンビア戦ではティエリー・アンリとジブリル・シセの2トップの突破力が攻撃の軸となったが、この2人はベンチスタート。代わりに日本戦で少ない攻撃のチャンスを効果的にしたのは左サイドのロタン、右サイドのピレスという2人のワイドプレーヤーである。ロタンは本連載第173回でも紹介したが、モナコの優勝争いの原動力となり、フランスリーグのアシスト王である。一方、ピレスは本来ならば昨年のワールドカップの攻撃の主力であるはずだったが、負傷のためエントリーされず、ようやく昨秋に復帰し、2月のチェコ戦で代表復帰を果たしたばかりである。マルセル・デサイーがベンチ、ジネディーヌ・ジダンとエマニュエル・プチは今大会のメンバーに入っていないことから、ピレスはこの試合で初めてフランス代表のキャプテンを務めている。
 若さと実績のロタン、責任感と実績のピレスという両サイドからの攻撃が数少ないチャンスをものにする。そして、後半に入ってロタンに代えてアンリを投入し、マルチサイドプレーヤーのピレスを左に回し、アンリとピレスが攻撃の起点となる。60分に中村俊輔のFKで追いつかれた後はゴブーとマルレの2トップを接近させ、ボールを集中させるという戦術に切り替え、5分後に難なく勝ち越し点をゴブーが決めた。日本の個人技に押され気味だった試合でも、ジダンなしでも十分に試合を組み立て、ゴールネットを揺らすパターンが確立していることを証明した試合であった。

■名将誕生の予感、サンティーニ監督の見事な采配

 試合終了時のスコアは2-1、わずか1点差である。そしてボール支配率は日本が優勢、しかも試合会場はフランスのホームで熱狂的なファンが多いことで有名なサンテエチエンヌである。スコアとスタット(統計データ)の面ではフランスの辛勝にしか見えない。しかし、この試合の2時間前にリヨンで行われたコロンビア-ニュージーランド戦でコロンビアが3-1と勝っていることから、フランスはこの日本戦に勝ちさえすれば次のステップに進むことができる。もし、ニュージーランドがコロンビアに勝っていれば、最終戦でフランスと対戦するニュージーランドにも決勝トーナメント進出の可能性が残ることから、得失点差を考えた勝利が日本戦で必要になってくる。得失点差を考えた勝利を望むならば、ボール支配率を上げて、守備的MFも攻撃の起点となるような試合運びになったはずである。しかし、サンティーニは限られたメンバーの中で「勝ちさえすればいい」というゲーム運びをかつてのライバルの本拠地サンテエチエンヌで遂行し、目標を達成した。
 このサンティーニという監督が、アルベール・バトー以来のクラブチーム出身のフランス代表の名監督になるのではないかと感じさせる試合であった。(続く)

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