第354回 フランス代表監督の交代(1) さらば、ジャック・サンティーニ監督

■ギリシャ戦以外の公式戦は全て勝利したジャック・サンティーニ監督

 欧州選手権では優勝したギリシャに敗れ、ベスト8にとどまったフランス代表。その敗因についてはいろいろと挙げられるが、指揮官のジャック・サンティーニ監督が本大会前にイングランドのトットナム・ホットスパーズ入りを表明したことによる士気低下を指摘する声も少なくない。
 大会が終了してサンティーニ監督のこの行動を疑問視する声もあるが、確かに本大会までの戦績と大会が始まってからの戦績に明らかにギャップがあることは否定できない。本連載でもその都度サンティーニ監督の足跡をレポートしてきたが、デビュー戦の2002年8月21日のチュニジア戦こそ引き分けだったものの、その後は連戦連勝、この2年間の最大のテーマであった欧州選手権予選は8戦8勝のグランドスラムを達成する。そして2003年6月に行われたコンフェデレーションズカップでは5戦全勝で連覇を果たす。すなわち就任以来2年近く、公式戦では13戦全勝と言うとてつもない成績を残している。一方、親善試合でも磐石の試合運びを行い、7勝3分1敗という成績を残している。公式戦と親善試合を含めた通算成績でも世界記録とも言える14連勝、そして11試合連続無失点と言う比肩するべきものがない成績を残していることは評価しなくてはならない。

■国内リーグの若手登用、フランス伝統のシステムを堅持

 しかもこれらの数字はただ結果を物語っているだけではない。固定したベテラン選手で戦術を固め、当面の勝利だけを追ったわけではなかった。積極的に若手選手、しかもフランスリーグで活躍し、結果を出している選手を起用し続けた。一方、戦術面についてはフランス伝統の4-4-2システムを堅持し、中盤は2人の守備的MFが敵の攻撃を摘み取り、攻撃的MFは左右に配置しながらも変幻の動きで得点を重ねてきた。このように内容のある結果を出してきたフランス代表に対して期待が膨らむのも当然のことである。連勝記録はオランダ戦の引き分けでストップしてしまったが、攻撃力のあるオランダを無失点に抑え、無失点記録はその後のブラジル戦、ウクライナ戦でも継続し、リスボンのルス競技場でのイングランド戦を迎えることになった。

■11試合連続無失点から一転、イングランド戦から4試合連続で失点

 イングランド戦は本連載第343回でも紹介したとおり、ロスタイムに入ってからのジネディーヌ・ジダンの神がかりともいえる2得点で逆転勝ちしたものの、守備陣のほころびを感じさせる試合となってしまった。まず、無失点記録の途切れたフランスは続くクロアチア戦、スイス戦でも失点を喫する。特にクロアチア戦はイングランド戦に続き、負けてもおかしくない試合展開であったが、スイス戦では勝利をものにして決勝トーナメント進出を果たす。
 しかし、決勝トーナメントで対戦したギリシャはフランスの守備のほころびを見逃すことなく見事なクロスからの展開で唯一の得点を奪い、逆に愚直とも言えるディフェンスでフランスのスター選手の攻撃を食い止める。技術的には優位に立つフランスが本大会に入ってから調子を崩し、システム、戦術にてこ入れしてスイス戦を勝利した矢先のギリシャ戦の敗北は、この競技にとってなによりも大切なものはハートであると言うことを再認識させてくれた。今季、チャンピオンズリーグで決勝に残ったモナコの快進撃は闘将ディディエ・デシャン監督の魂の賜物であり、その再現をポルトガルの地で代表チームのメンバーができなかったものであろうか。やはり、指揮官が大会の結果に関わらず次のポストを決定して公表してしまったことの功罪は少なくはない。

■ドーバー海峡をはさんで興味深いサンティーニ監督とその遺産の将来

 しかし、本大会では結果を残せなかったものの、前述の通り、この2年間のサンティーニ監督が築いてきたものは高く評価されるべきである。サンティーニ監督が残してきたものは今秋から始まるワールドカップ・ドイツ大会予選へと脈々と継承されるであろう。サンティーニ監督の行き先であるトットナム・ホットスパーズは伝統チームであるが決してビッグクラブではない。常勝リヨンを築き上げたサンティーニ監督はビッグクラブではないクラブがビッグクラブに勝つまでのプロセスを誰よりもよく知っており、中堅クラブでの指揮に魅力を感じたのであろう。ドーバー海峡をはさんでサンティーニ監督とサンティーニ監督が残してきた遺産がどのように今後成長していくのか、楽しみである。(続く)

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