第646回 パルク・デ・プランスで死亡事件(1) パリサンジェルマンのファンが死傷

■フランス国内に波紋を投げかけた青年の死

 去る11月23日、パルク・デ・プランスでUEFAカップグループリーグのパリサンジェルマン-ハポエル・テルアビブ(イスラエル)戦が行われ、テルアビブが4-2で勝利した。この試合終了後、両チームのファン同士の小競り合いに端を発し、1人の青年が命を落とした。この25歳の青年の死が、フランスのサッカー界だけではなくフランス全体に大きな波紋を投げかけているのである。
 サッカーファンが競技場の内外で小競り合いを起こすこと、好ましいことではないが、古くから見られる光景である。そしてその小競り合いがエスカレートして死亡者が出ること、悲しい話であるが時たま起こることは否定できない。今回のファンの死亡事件であるが、これまでのファン死亡事件とは本質的にかなり異なる。

■ふがいない試合に腹を立てたパリサンジェルマンのファン

 まず、この事件の概要について警察の報告に基づいて紹介しよう。試合は20時45分にキックオフされる。今季のリーグ戦では不振で、UEFAカップのグループリーグでも勝利のないパリサンジェルマンに期待がかかり、UEFAカップのグループリーグでは異例の3万人の観衆が集まった。しかし、パリジャンの期待もむなしくパリサンジェルマンは2-4で敗れてしまう。ふがいないパリサンジェルマンの選手にブーイングを浴びせていたパリサンジェルマンのファンであるが、試合終了後にパルク・デ・プランスから出るとその矛先は相手チームのハポエル・テルアビブのファンに向けられた。

■ハポエル・テルアビブのファンを救おうとした警官が発砲

 約150人のパリサンジェルマンのファンが4人のハポエル・テルアビブのファンを取り囲み、襲撃する。これが22時40分くらいのことである。そしてそれを目撃した警官隊がハポエル・テルアビブのファンを救出するために割って入る。警官隊は催眠ガスを発砲するが、それでも騒ぎは収まらない。そして、22時53分、催眠ガスとは異なる銃声が聞こえた。その銃声はハポエル・テルアビブのファンを守るために警官がパリサンジェルマンのファンに向けて撃たれたものであった。この結果、パリサンジェルマンのファン1人が死亡(推定死亡時刻23時30分)、そして1人が重傷となった。発砲した警官は騒ぎのあったパリ市営地下鉄ポルト・ド・サンクルー駅近くのマクドナルドに逃げ込み、その後身柄を拘束された。

■熱狂的なファンの集まる「ブローニュ」で観戦していた2人の死傷者

 この事件には死亡した青年、重傷となった青年、パリサンジェルマンのファンに囲まれたハポエル・テルアビブのファン、警官、と言う主な登場人物が4人いる。
 まず、命を落とした青年は25歳で電気修理工であり、エッソンヌ県の出身である。エッソンヌ県は茨城県と姉妹県であり、鹿島アントラーズと交流も深いことから日本のファンの皆様もこの事件をよくご存知であろう。この電気修理工の母親によると、息子は試合を見に行くことができる日は見に行っていたと言う。亡くなった電気修理工の友人の1人が、パリサンジェルマンの熱狂的なサポーターズクラブであり日本にも支部があるブローニュボーイズのメンバーであり、一緒に試合を見に行っていた。そして重傷となったファンは26歳であるが、パリサンジェルマンの別のサポーターズクラブであるコップ・ド・ブローニュの主要なメンバーであった。
 これまで登場したサポーターズクラブの名前にはいずれもブローニュという名前が付いているが、パルク・デ・プランスはメインスタジアムから見て右側にブローニュの町があるのでこの右側のゴール裏を「ブローニュ」、左側にはオトゥーユの町があるので「オトゥーユ」そしてメインスタジアムは大統領が座るので「プレジデント」、バックスタンドの裏側にはパリの街が広がるので「パリ」とスタンドの座席を称している。ブローニュボーイズもコップ・ド・ブローニュもゴール裏の「ブローニュ」の観客席を根城とするサポーター集団である。このブローニュには熱狂的なサポータークラブが数多くあることから、今までも数多くの事件を起こしてきたのである。(続く)

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