第1270回 2011年女子ワールドカップ(8) 米国を圧倒するも、決勝進出ならず

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■フランス女子を強化したブルーノ・ビニ監督

 宿敵イングランドをPK戦の末破ったフランスは、準決勝に進出する。これまで男子はワールドカップでは5回準決勝に進出しており、これ以外に欧州選手権でも4回準決勝に進出している。女子のフル代表の主要大会であるワールドカップ、オリンピックではこれが最初の準決勝進出となる。ここまでチームを引き上げたのはひとえに代表監督であるブルーノ・ビニの手腕によるところが大きい。昨年のFIFAの世界女子最優秀監督の10人の候補にも選ばれたビニ監督は親子2代のサッカー選手である。偉大な父親ピエール・ビニのレベルには選手としては達することができず、26歳で現役を引退する。そして30代後半からは女子の指導者となり、1993年から1997年までは16歳以下の女子フランス代表、1997年から2004年までは19歳以下の女子フランス代表を指揮し、2007年には女子のフル代表の監督に就任している。

■大会に入ってから調子をあげてきたフランス

 そしてこのフランスと準決勝で戦う相手は米国である。米国は世界ランキング1位であり、ワールドカップでも2回の優勝を誇る強豪国である。フランスは米国とこれまでの14回対戦しているが、わずか2勝、あとは1分11敗と言う成績である。そしてこの勝利も1990年、1992年とほぼ20年前のことである。ここまでの数字を紹介すると米国の優勢が予想されるが、決してそうではない。
 フランスは近年力をつけてきたとは言っても今大会の前評判は第二集団であった。手探り状態で情報も少ないナイジェリアに勝利すると、実力伯仲のカナダに大勝して、決勝トーナメント進出を決める。さらに優勝候補筆頭のドイツにはよく食い下がり、正GKが退場処分を受けて1人少なくなっても果敢に攻め、候補ドイツをひやりとさせた。そして準々決勝のイングランド戦はPK戦の末、勝利を得るが、内容的には完勝であり、大会に入ってから調子をあげてきた。男子のワールドカップで言うならば優勝した1998年大会、準優勝した2006年大会とよく似た展開である。

■世界ランキング1位らしくない内容の米国

 一方の世界ランキング1位の米国であるが、今大会は米国らしさがまだ出ていない。グループCでの戦いは第1戦の北朝鮮戦と第2戦のコロンビア戦は連勝し、フランス同様最終戦を待たずに決勝トーナメント進出を決めたが、最終戦のスウェーデン戦には完敗し、グループ2位にとどまった。
 そして決勝トーナメントではブラジルと対戦する。この試合は開始早々にブラジルのオウンゴールにより米国が先制するが、後半にブラジルの誇るスター選手のマルタに同点ゴールを許し、試合は延長に入る。延長開始早々に今度はマルタが逆転ゴール、米国万事休すと思われた後半ロスタイムの112分、米国はエースのアビー・ワンバックの同点ゴールでPK戦に突入した。PK戦では米国の誇る守りのスターであるGKのホープ・ソロの独壇場でブラジルを苦戦の末下したのである。

■猛攻に次ぐ猛攻もカウンターアタックに沈んだフランス

 メンヘングランドバッハで行われた米国-フランス戦は両チームの勢いを象徴する試合となった。格上の米国は9分にローレン・チェニーが先制点を奪う。しかし、終始ボールをキープし、敵ゴールを襲ったのは青いユニフォームのフランスであった。パスが面白いように回るとともに、そのパスが最終的にはシュートにつながる。そしてついに55分、ソニア・ボンパストールが同点ゴールを決める。
 ここから試合はフランスの猛攻を米国の守備陣がしのぐという展開になった。フランスの果敢なパス回しに白いユニフォームの米国は防戦一方となり、フランスの勝ち越し点は時間の問題と思われたが、世界ランキング1位の米国はしたたかであった。
 79分にカウンターアタックからワンバックが勝ち越し点を決め、リードされたフランスが前がかりになったところを82分にアレックス・モーガンが追加点をあげ、フランスを突き放す。
 残り8分で2点のビハインドとなったフランスはなおも攻めるが、1-3と言うスコアで決勝進出の望みを絶たれる。しかし、終わってみればシュート数は米国の11に対し、フランスは25、圧倒的に攻めて散ったフランスはスタンディングオベーションで讃えられたのである。(続く)

このページのTOPへ