第3218回 環境問題に直面するサッカー

 平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■環境省から発表されたショッキングなレポート

 前回の本連載では、シーズン開幕前週に行われるチャンピンズトロフィーが当初はタイのバンコクで開催予定であったが、現地のプロモーターが開催を返上、来年1月に他国で開催することをお伝えした。その中止の理由として遠距離移動を伴う試合に対する環境問題の観点から批判が存在することも紹介した。
 環境問題がサッカーにも大きく関係していることを認識させるレポートが機を同じくして5月中旬に環境省から発表された。これは近年の気候変動をまとめたものである。

■芝がめくれ上がったグラウンド

 気候変動というと高温、豪雨、洪水、大雪など様々あるが、サッカーの世界で気候変動を語ってくれるものがある。それが芝生である。近年、芝の状態が悪いケースが散見される。芝がめくれてしまい、パスがつながらない。フランスサッカー伝統の流れるようなパス回しではなく、かつてのイングランドのような前線に放り込むサッカーに後戻りしてしまう。5月に入ってからでいうと14日に行われたモナコ-リール戦、4位のモナコと5位のリールという来季のヨーロッパリーグ出場を争う重要な試合である。日本の南野拓実も出場したことから、多くの方が関心を持たれたであろう。17時のキックオフ、南仏特有の強烈な日差しの下での試合は行われ、ところどころめくれ上がった芝のピッチでは攻撃が十分に組み立てることができず、両チーム無得点のまま90分が終わってしまった。
 もちろん、モナコのルイ二世競技場のスタッフは十分な芝生の手入れをしている。また、この競技場は陸上トラックを併設しているが、リーグ戦以外の使用頻度は低い。そして、真夏でもないのに芝生が禿げ上がってしまう。

■極度に乾燥した気候の続くフランス

 この理由は気候の乾燥である。先述のレポートによるとフランスでは2017年以降、極度に乾燥した気候が続いている。芝生は散水するだけではなく、地面奥深くの水分が不可欠である。先述のレポートはフランス国内の県別の乾燥度合いを5つのレベルに分けて警告を発している。来季の1部リーグに参戦する18チームのうち12チームは危険エリアのチームである。大西洋岸や中央高地、東部地区は問題がないが、深刻なのは地中海岸である。これまで、地中海岸は雨が少なく、恵まれた気候という評価であったが、異常気象により、雨が降らず、山火事の多いエリアとなっている。昨年は7月にフランス国内で山火事が多発、多くの市民が避難を余儀なくされた。今年は早くも4月にスペインとの国境近くで山火事が発生し、鉄道は運休、道路は閉鎖と、市民生活に大きな影響が出た。
 今回のレポートで最も深刻なレベル4に指定されたのはスペイン国境に近いピレネー・オリエンタル県とニームのあるガルド県である。そしてモンペリエのあるエロー県やニースのあるアルプス・マリティーム県がそれに次ぐレベル3となっている。モナコは行政上ではフランスではないが、南仏と同じ気候帯であり、乾燥によって芝の状態が悪いのもうなずける。

■エコシステムを配備したスタジアム

 5月の時点で芝が乾燥のためはがれる事態はモナコだけではなく、モンペリエ、ニース、マルセイユも同様である。この中で最も近代的なスタジアムがニースのアリアンツ・アリーナである。2020年にグラウンドに水を供給するシステムを配備した。また、南仏最大のスタジアムであるマルセイユのベロドロームは7400立方メートル、すなわち50メートルプール2杯分の雨水を再利用することによってしのいでいる。
 これは試合をするスタジアムの問題だけではない。選手の練習場も同じ問題に直面している、すなわち、このエリアにある草の根レベルからトップクラスまでサッカー場の芝が悲鳴をあげているのである。
 そして重要なことは乾燥によって問題が生じているのはサッカー場の芝だけではない。農業をはじめとする産業、日常生活にも影響が出ているのである。(この項、終わり)

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