第210回 NBAファイナル (3) ニューヒーロー、トニー・パーカー

■19歳でNBA入りしたトニー・パーカー

 フランス人として史上初のNBAファイナル進出を果たしたトニー・パーカー。長い伝統のあるNBAファイナルの歴史の中で欧州人として10人目の輝かしい舞台に立つわけであるが、パーカーの経歴には特筆すべきものがある。ここで簡単にパーカーの経歴を紹介しよう。パーカーは1982年5月17日にベルギーのブルージュで生まれている。10歳の時からフランスのクラブチームに所属し、北仏のクラブを転々としたが、注目を集めたのは2000年の欧州ジュニア選手権の時である。当時パリBRに所属していたパーカーはこの大会の優勝の原動力となり、大会最優秀選手に選出される。そしてその年の秋には弱冠19歳6か月でフル代表入りする。
 翌2001年6月にはサンアントニオ・スパーズからドラフト28位で指名される。スペイン人選手がパーカーより上位に指名されていたが、パーカーは彼らをしのぐ活躍をしていくことになる。ドラフト指名の翌月にはプレシーズンマッチに出場、いきなり29得点という衝撃的なデビューを飾る。公式戦のデビューは10月30日のロサンジェルス・クリッパーズ戦、スパーズ史上最年少の選手として出場し、9得点をあげる。コンスタントに試合に出場し、ルーキーオールスターにも選出され、1年目のシーズンを終える。2年目のシーズンはチームの司令塔であるポイントガードとしてチームのレギュラーシーズンの60勝22敗というトップの成績に貢献し、1試合平均15.5得点という成績を残し、「最も成長したプレーヤー」の4位に選出された。そしてプレーオフでの活躍については前回までの連載で紹介したとおりである。

■ニューヒーローの出現に高まる期待、トニー・パーカー現象

 それまでの欧州人ファイナリスト、あるいはフランス人のNBAプレーヤーであるタリク・アブドル・ワハッドとアントワン・リゴードーなどは欧州でそれなりの実績を残してから新大陸に渡っているが、パーカーは若い段階で北米に渡り、米国で成長を遂げつつあるニューヒーローである。
 ジャン・ピエール・パパンがJPPと呼ばれたように、トニー・パーカーもTPと頭文字で呼ばれ、フランスでは若い世代を中心に人気は急上昇中である。パーカーの所属するスパーズは10月にメンフィス・グリズリーズと共にパリを訪れ、プレシーズンゲームを行う予定であり、NBAにとってパーカーのおかげでパリは一躍有望な市場になった。もちろん、スポンサーもパーカーの人気にあやかりたいところであり、18年という長期の契約をパーカーと締結するスポンサーも現れた。そしてこのニューヒーローの活躍を見ようと、多くのフランス人が夜中の2時や3時にテレビのスイッチを入れるというトニー・パーカー現象が起こり、それはカンファレンスファイナルの行われた5月だけではなく、NBAファイナルの行われる6月も続いたのである。

■圧倒的な成績でイースタンカンファレンスを制したニュージャージー・ネッツ

 ウエスタンカンファレンス代表のスパーズはファイナルでニュージャージー・ネッツと対戦する。ネッツはイースタンカンファレンスのセミファイナルでボストン・セルティックスに4勝0敗、ファイナルではデトロイト・ピストンズに4勝0敗と圧倒的な成績でファイナルに駒を進めてきた。そしてこれまでの試合数が少ないことは選手の疲労が少ないことを意味しており、その点でも優位に立っている。

■注目のポイントガード対決

 ネッツの切り札はなんと言ってもポイントガードのジェイソン・キッドである。司令塔として抜群のパスを出すだけではなく、「ミスタートリプルダブル」と言われる万能プレーヤーである。トリプルダブルとは1試合で得点、スチール、リバウンド、アシスト、ブロックのうち3つで2桁の成績を残すことである。数多くの経験を持つ30歳の「ミスタートリプルダブル」とフランスの21歳の若武者が同じポジションで対決するポイントガードの争いが、今年のファイナルの見所となったのである。パーカーにとってこれ以上ない相手との対戦である。今日もフランス中を睡眠不足にする若武者の戦いに注目したい。(続く)

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