第235回 2003年世界陸上パリ大会 (4) トラックを沸かせたフランス男子

■2人のファイナリスト、男子400メートル

 大会初日と2日目に行われた女子七種競技でユニス・バルベルが銀メダルを獲得し、地元開催の世界陸上は序盤から一気に盛り上がりを見せ、男子のトラック陣も活躍した。
 バルベルが復活を期して七種競技を行っている週末、フランス期待の男子400メートルの予選と準決勝が行われた。男子400メートルにエントリーしているフランス人はマルク・ラキーユとコートジボワール出身のレスリー・ジョーン。ラキーユは400メートルのスペシャリスト、ジョーンは400メートル以外にも200メートル、走り幅跳びもこなす万能選手である。大会初日に行われた予選では2人とも45秒台前半という記録で準決勝進出を難なく決める。翌日に行われた準決勝ではラキーユは難なくトップで予選通過。そしてジョーンは組み合わせにも恵まれ、他の7人の決勝進出者が44秒台をマークしたのに対し、ただ1人45秒台で準決勝を勝ち抜く。バルベルの銀メダルと2人の決勝進出に大会最初の週末は沸いたのである。

■米国勢のメダル独占を阻んだラキーユ

 決勝に同時に2人のフランス人が残ったということは歴史的なことであり、決勝は準決勝から1日のインターバルを経て火曜日に行われた。8人のファイナリストで準決勝のタイムのトップは44秒60の米国のワシントン、2番手は同じく米国のジェローム・ヤングの44秒70であり、この2人が優勝候補。一方フランス人ファイナリストの準決勝のタイムはラキーユが5番目でジョーンは8番目。しかし、フランス勢は決勝ではこの上ない見事な走りを見せた。まず、ラキールは44秒79のフランス新記録を樹立し、ヤング、ワシントンについでゴールイン、見事に銅メダルを獲得する。そして準決勝で最下位のタイムだったジョーンは44秒83と自己ベストタイムを更新し5位に入賞した。大会4日目のファイナル競技となった男子400メートル決勝での2人の活躍はとっぷりと暮れたフランスの夜を熱狂させ、最終日に行われる4×400メートルリレーへの期待が膨らんだのである。

■男子1500メートルのメーディ・バーラとフアド・シュキ

 男子400メートル決勝の熱狂から一夜明けた27日もスタッド・ド・フランスの熱狂はさめることはなかった。この日は欧州チャンピオンズリーグの予備戦3回戦、マルセイユ-オーストリア・ウィーン戦が行われたが、ごく一部のマルセイユファン以外は男子1500メートルの決勝に注目した。男子1500メートルにはフランスからメーディ・バーラとフアド・シュキというストラスブール出身の2人がエントリーし、2人とも予選、準決勝をクリアして決勝のスタートラインに立つことになった。シュキは世界陸上の前哨戦というべきチューリッヒの大会で3分30秒83というフランス新記録を15日にマークしたばかりである。一方のバーラはフランス中距離界の第一人者であり、800メートル、1000メートルのフランス記録保持者である。そして得意の1500メートルについては、昨年の欧州選手権のチャンピオンであり、現在の記録こそシュキに塗り替えられてしまったものの、今年7月4日にパリで記録した3分30秒97というタイムはフランス新記録であった。

■ヒシャム・エルゲルージ4連覇、バーラは銀メダル

 この2人のアルザス出身の中距離ランナーの前に立ちはだかっているのがモロッコのヒシャム・エルゲルージである。1997年のアテネ大会から3大会連続してこの種目のタイトルを保持し続けており、今大会でも優勝候補ナンバーワンである。4連覇を目指すエルゲルージの最大の敵は超満員のスタッド・ド・フランスの大声援であろう。さすがの優勝候補もアウエーゲームの恐怖を感じたようであるが、その恐怖感は号砲が鳴り、800メートルを越えたあたりで一気にスパートをかけたところで払拭されたのであろう。エルゲルージは3分31秒77のタイムで見事4連覇を達成する。そして満員の観衆から「メーディ、メーディ」という声援を受けたバーラが3分32秒31で2位に入る。シュキも終盤まで上位を競いながら、残り40メートルで崩れ8位になる。
 大会5日目、すなわち4日残してフランス勢は銀メダル2(女子七種競技のバルベル、男子1500メートルのバーラ)、銅メダル1(男子400メートルのラキーユ)と過去の世界陸上の最多メダル記録と並んだのである。(続く)

このページのTOPへ