第249回 2003ラグビーワールドカップ開幕(1) 名実共に世界一決定戦

■グランドスラムも脇役に回すラグビーのワールドカップ

 10月11日、スタッド・ド・フランスでフランスがイスラエルを破り、欧州選手権予選全勝を決めたことについては前回と前々回の本連載でお伝えしたとおりであるが、偉業達成の翌日の新聞ではこのグランドスラムは脇役でしかなかった。
 主役は豪州で開催されているラグビーのワールドカップである。1987年に第1回がスタートし、まだ5回目を迎えたばかりの大会であるが、この間にサッカーのワールドカップとは全く異なる方針を貫き、英仏においてはサッカーのワールドカップ以上の注目を集める大会となった。

■競技の普及やビジネスの展開に力を入れたサッカーのワールドカップ

 ワールドカップ、世界選手権、オリンピックと言う国対抗の国際大会には世界一を決める、という本来の意味のほかに競技の普及やビジネスと言う側面もある。サッカーのワールドカップが1990年代以降、急速に競技の普及やビジネスに力を入れてきたのに対し、ラグビーのワールドカップは「世界一を決める世界一の大会」という意味合いを逆に強めてきた。例えば、サッカーのワールドカップは競技の普及、ビジネスの発展のためにアジア・アフリカからの本大会出場チームの増加や、この地域でのプロモーションに力を入れている。一方、ラグビーのワールドカップは本大会出場国こそ16から20へと増加させたが、伝統国・強豪国は予選を免除し、本大会出場が容易になるようにしている。

■システマティックに国際試合が行われるラグビーの世界

 1年中世界中の相手と国際試合のあるサッカーと違い、ラグビーの場合は国際試合の行われる時期と相手は限定されている。ラグビーの2大勢力は北半球の5か国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイランド、フランス)と南半球の3か国(ニュージーランド、豪州、南アフリカ)であり、これら8か国はインターナショナルボードメンバーと言われている。北半球の5か国はこれにイタリアを加え、早春に6か国対抗を行い、南半球の3か国は夏にホームアンドアウエーで対抗戦を行っている。これらの対抗戦に加え、北半球のチームが6月に南半球を訪問し、11月には逆に南半球のチームが北半球を訪問する。そしてこれらの8か国はほとんどの国際試合をこの8か国の間で行っているのである。
 以前はこれらの国がそれ以外の国と対戦することもあったが、ワールドカップが定着してから、国際試合のマッチメーキングは非常にシステマティックになり、強豪国は強豪国同志と対戦する機会が多くなった。サッカーの場合はワールドカップや欧州選手権の予選で著しく力の離れた相手と対戦したり、国際政治や国際経済の状況を優先させた親善試合を行ったりすることがあり、結果として強化にはつながらないこともある。しかし、ラグビーの場合、強豪国はワールドカップの予選を免除し、純粋に力の均衡した相手とのみの対戦に専念することになり、レベルアップを図ることができたのである。

■真の世界一を決める舞台のワールドカップ

 それだけにラグビーのワールドカップは真に一番強いチームを決めるという選手権大会本来の精神が非常に色濃く残っていると共に、その傾向は強くなりつつある。例えば、昨年のサッカーのワールドカップでは審判員のレベルが問題になった。これはより多くの国からワールドカップの審判員を選出することにより競技の普及と審判員のレベルアップを図ったことが、結果として誤審につながってしまった。ラグビーのワールドカップも以前は多くの国から審判員を招集していたが、今大会に招集した審判員のうちレフェリーを務める16人全員が前記の強豪8ヶ国に所属し、それ以外のタッチジャッジなどを務める16人もイタリア人が1人いるだけで、残り15人は8か国から派遣され、文字通り世界一を決める大会にふさわしい審判団になっている。ラグビーの場合はこのようにワールドカップが名実共に世界一を決める大会の地位を維持・向上しているのである。(続く)

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