第73回 EURO2000に臨むフランス代表メンバー

■変則的な代表チーム編成の過程

 スタッド・ド・フランスでのUEFAチャンピオンズリーグ決勝が終了し、いよいよ欧州選手権(EURO2000)が近づいてきた。前回の本連載ではフランスが強豪ひしめくグループDに入ったことをご紹介したが、今回はこの強豪に立ち向かうメンバーを紹介しよう。
 欧州選手権の選手枠は22人。通常は25人強の選手を候補にし、最終的に22人に絞っていく。ワールドカップ・フランス大会の時のフランス代表がそうであり、今大会ではオランダ、イングランド、ドイツ、チェコなども同様のセレクションをしているが、今回のフランス代表の選手選考は非常に変則的なものとなった。その経過は以下の通りである。

■トップクラスの選手たちの多くは国外でプレー

 モナコが独走優勝したフランスリーグの最終節は5月13日、一日の休息をおいて5月15日の午後、候補選手が高地トレーニングとリフレッシュを兼ねて欧州屈指のスキー場であるティーニュに参集した。ティーニュは、ワールドカップ・フランス大会を控えた1997年のクリスマス休暇と1997-98年のリーグ戦を終了した5月に合宿が行われた場所で、世界チャンピオンへ飛躍するきっかけをつくった縁起のいい土地である。
 しかし合宿初日に集まったメンバーは10人、うちゴールキーパーが3人と、フットサルの紅白試合もままならないメンバー構成となった。この理由は、多くの選手が外国のビッグクラブで活躍していることにある。現在フランス代表クラスの選手が所属している外国のリーグはイタリア、イングランド、スペイン、ドイツである。このうちフランスリーグと同じ週末にリーグ戦が終了したのはイタリア、イングランドであり、スペイン、ドイツのリーグ最終戦は翌週である。したがって招集されたのはフランス、イタリア、イングランドのリーグに所属している選手だけである。
 集まったメンバーはGKがファビアン・バルテス(モナコ)、ベルナール・ラマ(パリサンジェルマン)、ウルリッシュ・ラメ(ボルドー)、DFはバンサン・カンデラ(ASローマ)、フィリップ・クリスタンバル(モナコ)の2人、MFはジョアン・ミクー(ボルドー)、ロベール・ピレス(マルセイユ)の2人、FWはクリストフ・デュガリー (モナコ)、シルバン・ビルトール (ボルドー)、クリストフ・デュガリー (ボルドー)の3人。

■複雑な過程を経て集まった代表選手たち

 正規のリーグ戦が終了していても参加できない選手がいたのは、次のような理由による。イタリアリーグは終了したものの、インテル・ミラノとパルマが同勝ち点で4位に並び、来季のチャンピオンズ・リーグの出場権をかけたプレーオフを5月23日に行うため、インテル・ミラノのローラン・ブランとパルマのリリアン・テュラムが参加できなくなった。また、イングランド勢についてはフランス人選手が多く活躍するアーセナルは5月17日にUEFAカップ決勝を戦うため、エマニュエル・プチ、パトリック・ビエイラ、ティエリー・アンリは招集されず、チェルシーも5月20日のFAカップ決勝に進出したため、主将のディディエ・デシャン、マルセル・デサイー、フランク・ルブフは招集されなかった。イタリアリーグ最終戦でペルージャに負け優勝を逃したユベントスのジネディーヌ・ジダンは、一日遅れで合流した。
 ティーニュでの合宿は20日まで行われ、合宿2日めにはドイツのカイザースラウテルンからユーリ・ジョルカエフが突如加わり、ジダンと合わせて人数は12人となった。ティーニュ合宿から中二日おいて23日からは本拠地クレールフォンテーヌで合宿が行われる。代表監督のロジェ・ルメールはティーニュ合宿の終了した翌朝、今度は18人のメンバーを発表した。新たに加わったメンバーは先述のイングランド勢6人と、ドイツからバイエルン・ミュンヘンのビクセンテ・リザラズが加わった。そしてティーニュ合宿のメンバーではずれたのは21才のクリスタンバル。クリスタンバルはモナコの優勝に貢献し、今季フランスリーグでの最優秀若手選手にも選出され、高年齢化したメンバーの中に新風をそそぎ込むと期待されるティーニュ合宿の目玉だったが、ブルーのユニフォームを着ることはできなかった。

■世代交代の難しさと、欧州の過密スケジュール

 さて、残る「チケット」は4枚。クレールフォンテーヌ合宿開始時にまだ試合が残っていた選手に最後の4枚のチケットが渡された。来シーズンの欧州クラブの頂点を目指すブラン、惜しくもチャンピオンズリーグ出場を逃したテュラム、レアル・マドリッドに所属し欧州クラブの頂点に立ったニコラ・アネルカ、クリスチャン・カランブーが最後に加わった。結局フランスリーグから8人、イングランドリーグから6人、イタリアリーグから4人、スペインリーグから2人、ドイツリーグから2人という構成になり、このように12+7?1+4=22という変則的な経過をたどって代表メンバーの22人が決定した。
 結局今回のメンバーの22人中18人は2年前のワールドカップ優勝メンバー。2年ごとに行われるワールドカップ、欧州選手権で2年前のメンバーが18人も残るのは過去に例がない。(1986年のワールドカップ・メキシコ大会で1984年の欧州選手権フランス大会のメンバーが16人いたのが今までの最高である)平均キャップ数は36.3である。98年のメンバーからはずれたのはアラン・ボゴシアン(パルマ)、リオネル・シャルボニエ(グラスゴーレンジャーズ)、ステファン・ギバルッシュ(オセール)、ベルナール・ディオメド(オセール)で、彼らの平均年齢は29.3才である。ワールドカップ優勝メンバーでないのはラメ、ミクー、ビルトール、アネルカで、彼らの平均年齢もすでに25.0才。22人の平均年齢は28.0才と前回のワールドカップ時の26.7才を上回る。世代交代が進まないのは若手選手の国外流出に加えて、合宿がわずか15日間と代表チームにかけることのできる時間が少なくなっていることにも原因がある。隣国で行う欧州選手権でもこのようにチーム編成に苦しんでいるのである。2年後の極東でのワールドカップの時にはどのようなチーム編成を行うのであろうか。

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