第619回 2006年女子バスケットボール世界選手権(2) 第1戦で欧州女王チェコに劇的逆転勝利

■海外県マルティニックで最終合宿

 昨年の欧州選手権で5位に入り、世界選手権の出場権を獲得したフランスであるが、世界選手権の開催国は南米のブラジルである。欧州勢にとって欧州以外での世界選手権は大きな負担のかかる大会である。
 ところが、フランスはこのブラジル開催を逆にメリットとすることができた。例年であればシーズン初めに相当するこの時期に代表チームが試合をするためには合宿をしてチーム力を向上させることが必要である。他の欧州のチームは国内あるいは新大陸に渡って合宿と練習試合を繰り返した。ところがフランスは8月中は国内で合宿と親善試合を繰り返したが、9月に入るとカリブ海に浮かぶ島マルティニックにその活動拠点を動かしたのである。本連載の読者の皆様ならばよくご存知のとおりマルティニックは海外県であり、第487回から第489回で紹介したとおり、昨年11月9日にこの海外県でフランス代表はコスタリカと親善試合を行っている。この遠隔地でのホームゲームにアーセナルのアルセーヌ・ベンゲル監督が異議を申し立てたことは本連載第485回で紹介したとおりであるが、結局フランスはワールドカップで準優勝という成績を残し、このマルティニックでの親善試合は女子バスケットボールの代表チームの滞在にも大きく貢献することとなった。

■欧州4位のリトアニアに3連勝してブラジル入り

 フランスは8月の国内での親善試合の成績は6勝2敗、2敗はロシアと中国相手であるが両チームとは2戦して1勝1敗と五分の成績であり、勢いさえつかめれば、上位国も怖くないことという自信を持った。その自信を確信に変えたのが、遠隔地でありながら、ホームであるというマルティニックでの最終合宿地である。フランスはこの地でリトアニアと3日間連続で親善試合を行った。リトアニアは昨年の欧州選手権で4位となり、世界選手権に出場するチームであり、初日の9月6日は70-56とフランスが勝利し、その勢いを保ったフランスは7日も72-51、最終日も66-58と3連勝してブラジル入りすることとなった。
 グループリーグの初戦で対戦するチェコは昨年の欧州選手権優勝チーム、第1戦に照準を合わせたフランスにとってこの3連勝は大きな意味があった。

■男子と異なる大会形式

 そしていよいよ世界選手権が開幕する。24チームが参加した男子と16チームが参加する女子では大会形式が異なる。女子の場合4チームずつの1次リーグを戦い、上位3チームが2次リーグに進出する。6チームずつ2つのグループに分かれるが、2次リーグでは1次リーグで対戦していないチームと3試合行い、1次リーグ3試合と2次リーグ3試合の合計6試合の成績で順位を決め、上位4チームが準々決勝に進出し、以降はトーナメント方式で争われる。すなわち、1次リーグを突破するだけならば難しくはないが、その成績が決勝トーナメントに影響するため、1次リーグ突破が見えていても手を抜くことはできない。

■ラスト1分間に2本の3ポイントシュートで逆転勝ち

 その手を抜くことのできない1次リーグの初戦はチェコ、いきなり強敵との対戦である。振り返れば男子も初戦がアルゼンチン戦であり、アルゼンチン戦での大善戦が上位進出につながった。女子も男子に続けと、9月12日のチェコ戦は気合の入った試合となった。第1クォーターは17-18とわずかに1点のビハインド、そして第2クォーターは12-12のイーブンとなり、前半を終了した時点で29-30という大接戦である。第3クォーターでは一時はフランスが逆転し、6点差をつけたが再び逆転され、チェコが17-15とリードをわずかに広げた。フランスは3点差を追って最後の10分間を戦うことになった。
 試合は残り1分となったところで56-58とチェコが2点リード、そしてここからフランスの奇跡が始まった。まずオードレイ・ソーレ・ジルスピが3本とシュートを決め、59-58と逆転、さらにサンドラ・ルドレアンも3ポイントシュートを決める。この日、フランスが決めた3ポイントシュートはわずかに4本、しかしそのうちの2本が最後の1分間に成功し、欧州女王を沈黙させたのである。
 フランスは62-58というスコアで第1戦を飾り、好スタートを切ったのである。(続く)

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