第711回 2007年大統領選挙(1) 政治と無関係ではないフランスのサッカー

■注目を集めたリーグカップ決勝

 前回までの本連載で紹介したリーグカップの決勝戦については前年度のリーグ1位のリヨンと2位のボルドーの対決という豪華な顔合わせになったが、試合そのものは低調な内容に終わった。しかしながら、当日集まった観衆は79,072人とリーグカップ史上最多の観衆を集めた。そして当日は国営放送のフランス2で放映されたが、その視聴者数は670万人、同時刻にテレビを見ていた人のうち3割がこの番組を見ていたことになる。そしてリーグカップは決勝だけではなく、他の試合も放映しており、トータルでのべ4500万人がリーグカップの試合をテレビ観戦したと推計され、史上最高のテレビ視聴者数となったのである。

■多数の政治家が観戦したリーグカップ決勝

 そしてスタッド・ド・フランスに集まった観衆、多くのテレビ視聴者にとっては、夢のカードとなったピッチの中の試合ではなく、スタッド・ド・フランスのメインスタンドに陣取った豪華なメンバーに目を奪われたのである。通常、このようなビッグゲームには俳優や他のスポーツのスター選手が顔を連ねることはが珍しくない。しかしこの3月末に行われた試合には多くの政治家の姿がスタジアムのあちらこちらに見られたのである。まず、所轄官庁の主であるスポーツ省のジャン・フランソワ・ラムール大臣、ボルドー市長のアラン・ジュッペ、リヨン市長のジェラール・コロン、国民議会議長のジャン・ルイ・デュブレ、上院議長のクリスチャン・ポンセレ、元首相のジャン・ピエール・ラファラン、元パリ市長のジャン・チボリなどなど、枚挙に暇がない。通常、このような試合で市長が姿を現すことはまずない。しかし、今年は5年に一度の大統領選挙が直後に控えていることから多くの政治家がこの試合に足を運んだのである。
 1980年のモスクワオリンピックの際にスポーツと政治は別であるとしてボイコットしなかったフランスであるが、サッカーは政治とは無関係ではない。(正確にはフランスはモスクワオリンピックでは競技には参加したが、開会式をボイコットしている。)スポーツは政治の理解なしには運営できない。現大統領のジャック・シラクがパリ市長の時代にはパリサンジェルマンの試合のチケットが売れ残った際に、市が買い上げて小学生を招待していたこともある。また、スポーツチームに対するさまざまな法制面での優遇措置が行われている。サッカーのリーグ戦が選挙の投票日である日曜日には原則として行われないことも、フランスにおけるサッカーと政治の関係を物語っているであろう。重要な選挙のある日には競馬の出走時刻が変わり、プロのサッカーの試合が行われないという日本の方ならば、フランスのサッカーも同様の構図であることがよくお分かりであろう。

■12人が立候補した大統領選挙

 フランスにおいて最大の選挙は大統領選挙であろう。かつては7年に1回であったが、2002年からは5年に1回となり、シラク大統領が出馬しないことから新人12人の争いとなった。ニコラ・サルコジ(国民運動連合)、セゴレーヌ・ロワイヤル(社会党)、フランソワ・バイユ(フランス民主連合)、ジャン・マリ・ルペン(国民戦線)の4候補が有力と目された。

■内務大臣のニコラ・サルコジ、極右のジャン・マリ・ルペン

 この4候補の中で本連載でも登場してきたのがサルコジ候補である。内務大臣として治安の維持に努め、一昨年のパリ郊外暴動事件、そして昨年秋のパルク・デ・プランスでのサポーター殺傷事件などの際にさまざまな発言をしてきた。もっともその発言が正しい方向であったかどうかは議論の分かれるところである。事実、自らもハンガリー移民の出身でありながら、移民に対する厳しい発言を繰り返し、反発を食らっている。
 そしてアンチ・サッカーという態度を示すのが、極右のルペン候補である。1950年代から移民排斥を旗頭に政治活動を続けてきた。1980年代のフランスのサッカーはミッシェル・プラティニの時代であり、さまざまな栄光を手にしたが、イタリア移民の出身であるプラティニをはじめ、サッカー選手には移民の出身が多いと、サッカーを敵視したキャンペーンを行ってきた。1990年代初めにはマルセイユの会長であるベルナール・タピと同じ選挙区で国民議会(下院)議員選挙を争ったこともある筋金入りのサッカー嫌いである。(続く)

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