第1298回 2011年ラグビーワールドカップ開幕(2) ワールドカップ誕生前に唯一認められたテストマッチ

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■オールブラックスにワールドカップで相性のいいフランス

 前回の本連載ではラグビーの世界ではワールドカップが回を重ねても伝統国が上位を占め、インターナショナルボードメンバーの8か国はほとんどこれまでの大会で取りこぼしをしておらず、ほぼ順当に決勝トーナメントに進出していた。
 フランスはこれまで6回の大会すべてで決勝トーナメントに進出している。本連載でも紹介してきたが、第1回大会では決勝に進出し、ニュージーランドに敗れたが、北半球の雄としての存在感を示した。北半球のインターナショナルボード加盟国である「5か国」の中で決勝トーナメントに6大会連続して進出している。特に第1回大会決勝で敗れたニュージーランドにはその後の相性は良く、実力世界一と目されているオールブラックスが1回しか優勝できないのはこのフランスがストップしたからである。

■北半球勢初の優勝はイングランドに譲る

 しかし、第1回大会と第4回大会で準優勝しながら、北半球勢の中での初優勝を第5回大会でイングランドに奪われ、前回大会は地元開催であり、優勝候補と期待され、決勝トーナメントではウェールズで行われた準々決勝でニュージーランドに勝利し、大会史上初めてオールブラックスをベスト8に留まらせた。しかし準決勝では地元でイングランドに敗れ、3位決定戦に回っている。

■フランスにとって汚点となったアルゼンチン戦の連敗

 フランスは前回大会では開幕戦となった予選プールの初戦、そしてこの3位決定戦でアルゼンチンに連敗し、4位にとどまっている。ラグビーワールドカップにおいて、予選プールと決勝トーナメントで同一のカードが行われるのはこれが唯一のケースである。サッカーの場合であれば、2002年ワールドカップのブラジル-トルコ戦など、まれに存在するが、ラグビーの場合はそれだけ予選プールのシード順通りの展開になっているのであろう。フランスとアルゼンチンの再戦が実現したのはひとえにフランスがオールブラックスを破った番狂わせによるところが大きい。
 もちろん勝利したアルゼンチンを讃えるべきではあるが、アルゼンチンに同一大会で連敗したことはフランスのラグビーにとっては歴史に残る汚点と言えるだろう。フランスにとっては前回の開幕戦が苦い思い出となっている。

■ワールドカップ前の日本戦をテストマッチに認定したフランス

 今大会のフランスの開幕戦の相手は日本である。日本の読者の皆様から頂いたメールによると、ラグビーのワールドカップの試合が地上波で生中継されるのはこのフランス戦だけとのこと、ちょうど大相撲秋場所と重なり、スポーツファンの関心は大相撲に集まってしまうからであろう。逆にこのフランス戦が日本にとって特別な試合となるのはこれまでの両国のラグビー界での交流の歴史に負うところが大きい。
 フランスと日本の代表の対戦歴であるが、1973年の日本の英仏遠征、1978年のフランスの日本遠征、1980年の日本の蘭仏遠征、1984年のフランスの日本遠征(2試合)、1985年の日本のフランス遠征(2試合)とワールドカップの誕生前に7試合、そしてワールドカップはスタートしてからは2003年の第5回大会の予選プールで対戦している。しかし、ワールドカップでの対戦を除くと、フランス協会側が日本戦のうち、国代表同士の戦いであるテストマッチとして正式に認めているのは1973年10月のボルドーでの対戦だけである。それ以外の試合は非公式な国際試合としてしか認識されていない。しかしながら、他の欧州の伝統国(イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ)はワールドカップ発足前に日本代表と戦っても、一切それは正式なテストマッチとは認められていないのである。また1989年にスコットランド代表は東京で日本に敗れているが、この試合にはスコットランドの主力はブリティッシュライオンズに参加しており、正式なテストマッチと認められていない。
 すなわち、フランスはワールドカップ以前に唯一日本との対戦を正式なテストマッチと認めている国なのであり、両国のラグビー関係者は相手国に特別なリスペクトをしているのである。(続く)

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