第2564回 トンガに勝利、決勝トーナメント進出(2) 選手の流出の続くトンガ

 平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、このたびの台風15号などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■過去3勝2敗のトンガ戦で決勝トーナメントのかかるフランス

 前回の本連載で紹介した通り、プールCの強豪対決でイングランドがアルゼンチンに39-10と大勝した。この結果、イングランドは勝ち点を15に伸ばす。フランスとの勝ち点の差は6に開いたが、アルゼンチンが勝ち点を伸ばすことができず6のままであるため、フランスはトンガ戦で引き分け以上で決勝トーナメント進出となる。
 フランスはトンガと過去5回対戦、対戦成績はフランスの3勝2敗。ワールドカップでは2回予選プールで対戦し、1995年大会ではフランスが38-10で勝利したが、2011年大会では14-19と敗れている。

■母国の代表チームに加わらない選手の多い太平洋諸国

 近年、トンガを含む太平洋諸国(フィジー、サモア)は選手の国外流出が続き、代表チームが弱体化している。かつては決勝トーナメントに進出したこともあるが、前回大会は3か国とも予選プールで4位となり、過去最低の成績となった。今大会は地区予選からの参戦であるが、これまでのところ、前回と同様の成績しか残すことができないであろう。
 もちろんフランスやアルゼンチンのように自国出身、自国籍取得の選手を優先するようになった国もあるが、今大会でも好調な国は外国出身、外国籍の選手を多数起用している。国民のわずか0.3%がサモア出身である豪州は代表チームの4分の1はサモア出身である。イングランドのブニポラ兄弟は出身国こそトンガではないが、両親はトンガ人である。
 太平洋諸国の多くの選手は国外のクラブに所属している。この国外のクラブといった時に、その国の代表選手になるケースは少なくない。また、その国またはトンガの代表となってもワールドカップ期間中に所属クラブを優先するケースも多い。例えば、フランスのTOP14はワールドカップ期間中も実施され、イングランドのプレミアリーグは予選プールが終わった翌週に開幕する。彼らにとっては代表チームで活動するよりも欧州の所属クラブでの活動の方が経済的には恵まれた報酬を得ることができる。
 このような条件の中で太平洋諸国の代表としてワールドカップに臨む選手に対して敬意を払わなくてはならないのが、現在のラグビー界である。フランスは代表選手の選出を今大会では自国籍、自国出身にこだわり、全員がフランス国籍を有し、外国出身の選手を4人に押さえ、しかもラグビー選手としてフランスに移住したのは2人だけ、という方針は伝統国としての矜持であろう。

■トンガの先発の中で5人はフランスのクラブに所属

 そのトンガは、イングランド、アルゼンチンに大敗してフランス戦を迎える。数字の上では決勝トーナメント進出の可能性は残されているが、現実的には米国との4位争いであろう。
 そのトンガは登録全員が国外のクラブに所属しているが、この日の先発メンバーのうちプロップのシッグフィールド・フィシフォイ(ポー)、フッカーのパウラ・ヌガウアモ(アジャン)、ロックのレバ・フィフィタ(グルノーブル)、ナンバーエイトのマアマ・バイプル(カストル)、センターのマリエトア・ヒンガノ(バイヨンヌ)の5人がフランスのクラブに所属している。これはイングランドのプレミアリーグの6人に次ぐ勢力である。

■規律面で改善がみられるトンガ

 フランスについて反則が多いことはこれまでの連載で紹介したが、トンガは反則の多いチームとして知られてきた。これまでにワールドカップには7回出場しているが、イエローカードを11枚受けており、これは最多記録である。近年は危険なプレーに対して厳しいジャッジがなされるが、トンガを含む太平洋諸国のチームはハイタックルが多いのがこの要因である。ところが、今大会ではイングランド戦もアルゼンチン戦も反則は9であり、相手とほぼ同じであり、規律の面での向上は認められる。これは選手の多くが欧州でプレーしているため、モダンな戦術を身に付けているからである。ベストメンバーではないが、欧州でもまれ、フランスを知りつくしたメンバーがフランスに立ち向かうのである。

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