第77回 ウルグアイと引き分け、瀬戸際に(4) 奇跡を起こせ、王者の誇り

■苦境から見事な勝利をおさめた1995年のルーマニア戦

 前回の本連載では精神的に優位なデンマークに対し、エマニュエル・プチとティエリー・アンリの出場停止、フランク・ルブッフの負傷による戦力ダウン、1992年欧州選手権スウェーデン大会での衝撃的な敗戦について述べたが、決して悲観的な材料ばかりではない。
 苦境に追い込まれたフランスが見事な勝利をおさめた最近の例は、本連載第32回で紹介した1995年10月11日に行われた1996年欧州選手権イングランド大会予選のブカレストでのルーマニア戦があげられる。エメ・ジャッケ監督体制で臨んだこの予選でフランスは負けこそないが、下位チームにも引き分けが続き、10試合中8試合を終了した段階で3勝5分、一方のルーマニアは5勝3分と言う成績ですでに予選首位を確定している。しかもルーマニアは1990年10月17日以来5年間ホームでは負けなしである。さらにそれまでフランスはアウエーではルーマニアに負けたことしかない。フランスが圧倒的不利という雰囲気が漂う中でのキックオフ。しかしながら、フランスは3-1で勝ち、サッカーの母国へのチケットをつかんだのである。

■モチベーションの高まったウルグアイ戦

 このルーマニア戦で活躍をしたのが代表2試合目のファビアン・バルテスであり、3点目を決めたジネディーヌ・ジダンである。バルテスについてはウルグアイ戦のマン・オブ・ザ・マッチに選出され、その鬼気迫るセービングで人数的に少ないフィールドプレーヤーを鼓舞した。ウルグアイ戦では闘志あふれるプレーが随所に見られ、選手のモチベーションも上向きである。初戦に続き途中から出場したジブリル・シセもウルグアイ戦では躍動感あふれる動きを見せ、得点はならなかったもののセネガル戦とは比較にならないほど素晴らしい動きを見せた。そしてジダンについては8日から練習を再開し、キックは負傷をしていない右足中心であるがデンマーク戦への出場意欲は満々である。

■3連勝中のデンマークに対して自信

 また、現在のフランス代表のメンバーはデンマークに自信を持っている。確かに1992年には辛酸をなめ、1996年の親善試合でも敗れたが、その後、最近では1998年ワールドカップ・フランス大会、2000年欧州選手権ベルギー・オランダ大会、そして昨年夏のナントでの親善試合と3連勝している。現在両国の対戦成績は5勝1分5分であるが、フランスの若い選手はデンマークに対して3連勝している相性のいい相手、という認識をしているかもしれない。
 これは前回大会の準々決勝で対戦したイタリア戦の例を思い出してみればよくお分かりであろう。過去の対戦成績はイタリアが圧倒している。しかし、ほとんどの選手が物心のついた1982年以降はフランスの3勝1分である。サンドニのピッチに立った選手はイタリアに対する苦手意識を持っていなかったはずであり、イタリアと120分間のスコアレスドローの末、PK戦で競り勝っている。また2000年欧州選手権の決勝については言うまでもない。フランスはロスタイムまでリードされていたが、潜在的な自信がシルバン・ビルトールの同点ゴールと延長に入ってからのダビッド・トレゼゲの決勝点につながっているのであろう。

■ローランギャロスも終わり、ワールドカップに集中

 そして最後に一つ、追い風がある。それは今大会のスケジュールによるものであるが、先週までフランスのスポーツファンの関心はワールドカップではなく、ローランギャロスで行われていたテニスの全仏オープンに集中した。しかもワールドカップのフランスの試合は日中に中継され、この時間帯多くのフランス人は遠くで行われている自国のサッカーチームの試合よりも、毎年恒例行事となっている地元のテニストーナメントに熱中した。
 セネガル戦はナタリー・デッシーの試合と重なり、続くアルノー・クレマンと昨年準優勝のアレックス・コレチャの試合は4時間を越えるフルセットの戦いとなった。残念ながらサッカー同様フランス勢が敗退したが、クレマンの健闘は国民にワールドカップの開幕を忘却させるに十分な印象的なものであった。続くウルグアイ戦は昨年のデビスカップ優勝の立役者であるセバスチャン・グロジャンが第2シードのロシアのマラト・サフィンに挑戦する時間帯と重なり、最後のフランス勢として期待を集めたグロジャンへの声援一色となった。このようにサッカーのワールドカップに対する国民の関心が低かったことも事実であるが、ローランギャロスも終了したデンマーク戦には4年前同様多くの国民が関心を持つはずである。
 決戦の地、仁川の港はルアーブルと姉妹港である。ルアーブルといえばフランスにサッカーが伝来した地である。仁川でフランスイレブンが奇跡を起こす予感がしてならない。(この項、終わり)

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