第92回 アジアで活躍したフランスのクラブの選手(4) 元気のなかった欧州勢

■14人の欧州勢がワールドカップに出場

 今回のワールドカップの登録選手でフランスのクラブに所属している選手は56人に上る。そのうちの大多数はアフリカの選手であり、その数は第89回から第91回までの3回の連載で紹介した通り35人になる。大陸別ではアフリカ勢が過半数を占め、それに続くのが今回紹介する欧州勢である。
 フランスリーグに所属する欧州の選手で、今回のワールドカップに登録した選手は自国であるフランスを含めて14人である。そのうち5人はフランスの選手であり、他の欧州諸国の選手は9人しかアジアの地を踏んでいない。国別に紹介すると、ドイツのオリバー・ビアホフ(モナコ)、ベルギーのダニエル・バン・ビュイテン(マルセイユ)、エリック・デフランドル(リヨン)、スウェーデンのポントウス・ファーネリュード(モナコ)、ミカエル・スベンソン(トロワ)、ポーランドのピエトル・シビエルチェフスキ(マルセイユ)、ヤツェク・ボンク(ランス)、ポルトガルのパウレタ(ボルドー)、ロシアのアレクセイ・スメルティン(ボルドー)となっている。
 ドイツを除くといずれも国内リーグのレベルがフランスに及ばない国ばかりであり、国内リーグの力が充実しているイングランド、イタリア、スペインという国の代表選手がいないことは残念である。また、国別の所属選手数は多くても2人であり、今まで紹介してきたアフリカのセネガルやカメルーンのようにフランスリーグが代表チームに影響を与えている国も見られない。

■ビッグクラブに集中する欧州国籍のワールドカップ組

 ちなみにフランスはウルリッヒ・ラメ(ボルドー)、グレゴリー・クーペ(リヨン)、フランク・ルブッフ(マルセイユ)、クリストフ・デュガリー(ボルドー)、ジブリル・シセ(オセール)の5人であり、国の分布を見ればアフリカのような強烈な特徴はないが、所属クラブの分布に着目すると非常に面白いことがわかる。すなわち、所属クラブ別の分布はボルドー4人、マルセイユ3人、モナコ2人、リヨン2人、ランス1人、オセール1人、トロワ1人となっており、いわゆるビッグクラブに欧州のワールドカップ登録選手が集中している。ベルギー史上最高の移籍金でバン・ビュイテンはスタンダード・リエージュからマルセイユに移籍した。フランスのビッグクラブで欧州諸国からのワールドカップ組がいないのはパリサンジェルマンくらいであるが、パリサンジェルマンについては前回取り上げたナイジェリアの2選手に加え、次回取り上げる南米の大物選手を抱えている。ビッグクラブという表現はもちろん強豪であることも意味しているが、それ以上に経営規模が大きく、国内外の大物選手を集めているクラブを意味することが多い。

■不本意な成績のビッグクラブ

 さて、これらのビッグクラブの成績だが、必ずしもその経営規模に見合った成績を残していない。昨年のリーグの成績を振り返ってみると、ボルドー6位、マルセイユ9位、モナコ15位、リヨン1位、ランス2位、オセール3位、トロワ7位となっている。確かにリーグ1位から3位までのチームも名を連ねているが、ボルドー、マルセイユ、モナコの成績は一抹の寂しさを感じる。リーグ優勝を争ったリヨンやランスを支えていたのは若手のフランス人選手であり、アフリカ人選手であった。ベルギー代表のデフランドルもフランスリーグを制したリヨンに戻れば半分くらいの試合にしか出場していない。3月の日本戦にも出場したポーランドのボンクはシーズン中にリヨンからランスに移籍したが、昨シーズンの出場は通算でわずか14試合である。ランスの快進撃を支えたワールドカップ組は、ボンクではなく、第89回の本連載で紹介した4人のセネガル勢である。リヨンのカメルーンのマルク・ビビアン・フォエ、ブラジルのエジミウソンも今回のワールドカップでも活躍したが、クラブでの貢献度も高かった。

■活躍したパウレタとスメルティンもグループリーグで敗退

 このように分析すると欧州勢でワールドカップでもその活躍が顕著だったのは、ポーランド戦でハットトリックをマークしたパウレタ、中田英寿をマークしたスメルティンくらいであるが、いずれもグループリーグで敗退している。ポーランド勢はかつてガンバ大阪にも在籍したシビエルチェフスキが最初の2試合だけ出場し、ボンクは初戦途中でベンチに下がり、ピッチに戻ってくることはなかった。決勝トーナメントに残ったチームでもベルギーのバン・ビュイテンは4試合フル出場したが、デフランドルはドローに終わったチュニジア戦だけの出場であり、スウェーデンの2人に至ってはピッチに立つことすらなかった。
 ボスマン判決移行、欧州域内の選手は「外国人枠」から除外されている。しかしながら、ワールドカップで活躍できるレベルの欧州域内の選手をフランスリーグがほとんど引きつけることができなかったことを意味しているのである。(続く)

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