第583回 美しく青き敗者たれ(1) PK戦で敗れ、2度目の優勝ならず

■第1GKに相応しい働きをしたファビアン・バルテス

 イタリアの5人目のキッカー、グロッソが蹴ったボールがゴールネットを揺らした瞬間、フランスは敗者となった。ワールドカップ・ドイツ大会の決勝はイタリアとフランスの間で争われ、90分間の規定の時間内では雌雄を決せず、延長戦でも両者譲らず、栄冠の行方はペナルティ・スポットから5本ずつ放たれるシュートの成否によることになった。
 先蹴はイタリア、守るGKはファビアン・バルテスである。所属チームのマルセイユの試合でも凡ミスが続き、今年に入ってからの親善試合でも不安定な守備を繰り返し、大会前からグレゴリー・クーペを起用すべきであるという世論が強かったが、5月14日のメンバー発表の際にレイモン・ドメネク監督は第1GKとしてバルテスを指名している。
 大会が始まってしまえば、結局この日までバルテスは2失点、韓国戦の朴智星による失点とスペイン戦のPKによる失点だけであり、大会前の予想以上に健闘したと言えるであろう。決勝戦のこの日も前半19分のアンドレア・ピルロのCKを頭で合わせたマルコ・マテラッティのシュートによる1失点に押さえ、味方の勝ち越しゴールを100分待った上でのPK戦となった。
 一方のジャンルイジ・ブッフォンは今大会でもっとも優れたGKであるという評価はゆるぎない。準決勝までの失点は米国戦のクリスチャン・ザッカルドのオウンゴールによる1点だけ、決勝戦でも6分の不運な判定によるPKを、技巧的なジネディーヌ・ジダンのキックで決められただけである。

■PKキッカーのジダンが不在のPK戦

 しかし、PK戦が始まる段階で、勝敗の行方は見えていた。まず、イタリアの最初のキッカー、ピルロが成功。そしてフランスの最初のキッカーはシルバン・ビルトール、本来ならば、今大会に入って全てのPKのチャンスを成功させてきたジダンが最初のキッカーとなるはずである。しかしながら、ジダンはこの10分前にマテラッティに頭突きを食らわせ、一発で退場処分となり、現役最後の試合の試合終了の瞬間をロッカールームで過ごすことになった。ビルトールは成功させたものの、キッカーを1人失っているフランスの劣勢は明白である。

■決勝戦の重要な場面に登場したマテラッティ

 2人目のキッカーで明暗が分かれた。イタリアはマテラッティ、フランスの1点目のPKはマテラッティがペナルティエリア内でフローラン・マルーダにタックルし、微妙な判定でファウルを取られてしまったことに起因する。そしてその汚名をそそがんばかりの力強いヘディングシュートを決めたのもマテラッティである。さらに延長後半の111分にジダンが頭突きをしたのもこのマテラッティである。この試合の重要な場面に必ず登場したのが、アレッサンドロ・ネスタとファビオ・カンナバロというイタリアが誇る不動のストッパー陣のバックアップとしてメンバー入りしたシチリア生まれのマテラッティなのである。そのマテラッティは難なくPKを成功させる。
 フランスの2人目はダビッド・トレゼゲである。何年も前からアンリ-トレゼゲという2トップが期待されたが、今回は実現せず、さらにアンリの1トップという布陣で決勝トーナメントを勝ち抜いてきた。決勝戦ではスタミナに不安のあるフランク・リベリーに延長前半99分に満を持して出場する。21分間の出場時間には得点はおろかシュートも放つこともなかったが、このPK戦でもトレゼゲの蹴った球はクロスバーをたたき、ゴールならず。結局、フランスはこの失敗が最後まで尾を引くことになる。

■5人全員がPKを成功させたイタリアが優勝

 3番手はイタリアのダニエレ・デ・ロッシ、フランスのエリック・アビダルともに成功する、4番手もアレッサンドロ・デルピエーロ、ビリー・サニョルが成功させ、ついに最後の5番手の登場となった。先蹴のイタリアは5番手が成功させれば優勝である。その期待を背負った番手はDFのファビオ・グロッソである。このグロッソをバルテスはとめることができず、結局イタリアの5人のキックに対し、バルテスは触れることさえできず、全員を成功させてしまう。フランスが2度目の優勝を飾ることはできなかったのである。(続く)

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