第20回 日本サッカー異質論はどこから(後編)

■フランスのジャーナリズム自体にも問題はあるが・・・

 前回の本連載では日本サッカーに対する認識が低いことと、サポーターなどその周辺ばかりが注目されているという「日本サッカー異質論」について述べたが、この原因はいったいどこにあるのであろう。
 まず、サッカーに限らず、一般にフランスのジャーナリズムが日本の特異な部分だけをとらえて「日本異質論」(すなわちフランスはすばらしい国だ)を展開する傾向がある。日本サッカーそのものに関しては、情報自体が少なく、また特徴もない。フランスでは「政治思想をバックグラウンドとする西欧のフーリガン」や、「サッカー=人生と考える南米人」といった一般的な認識がある。しかし、そうした従来の概念とは異なるスタイルを持つ日本のサポーター、新興のJリーグという本質ではない部分が、日本サッカー異質論に結びついているのではないだろうか。

■日本サッカーのインパクトの希薄さ

 実はサッカー先進国以外のサポーターについてフランスで話題になったのは、日本が最初ではない。昨年秋にはレゲエボーイズことジャマイカ代表の快進撃とそのサポーターが話題になった。真っ青に染まったジョホールバルで日本がイランを下したことよりも、同じ日に満員のスタジアムにワールドカップ常連国メキシコを迎えて引き分け、本大会初出場を決めたジャマイカのレゲエ・ボーイズとその熱狂的なサポーターの方がはるかに大きく報じられていた。昨秋の段階では熱狂的なサポーターが本大会初出場の原動力のように報じられていたが、この半年の間にルネ・シモンエス監督の戦術、協会の強化戦略、イングランドで活躍する帰化選手のプロフィールなどについても報じられるようになった。
 それに対して日本サッカーはいつまでたっても「日本経済のバックアップの下に大金の動くJリーグ」という評価から脱皮できない。本連載の第16回のグループリーグ突破の可能性では日本はジャマイカよりも高い評価を受けていたが、フランス人のサッカーそのものについての両国に対する認識を考えるならば、消化試合となった最終戦でジャマイカが日本を下した結果は順当であろう。
 結局は日本のサッカーそのものが与えるインパクトというものの希薄さにつきるであろう。また、日本選手が全員国内でプレーしており、情報を発信する機会が不足していることも事実である。(今大会で登録選手全員が国内リーグでプレーしていたのは日本以外ではサウジアラビアとスペインとイングランド。イングランド以外はグループリーグで敗退している)

■アーセナルに浴びせられた嘲笑とトイレットペーパー

 しかしながら、遠征してくる欧米のチームがマルコポーロの東方見聞録のように日本サッカーの印象を刻み込むことがある。
 例えば、1968年5月、前年秋に韓国と3-3の死闘を演じてメキシコオリンピックの出場権を得た日本代表は、シーズンを終えたばかりのイングランドの名門アーセナルを招いて強化のために親善試合を行った。アーセナルは国立で3-1、平和台で1-0、国立で4-0と3連勝する。欧州のプロチームの来日がまだ珍しい時代の国立競技場には6万人以上の観衆がつめかけた。アーセナルが本領を発揮した最終戦では大差が付くが、この試合では日本が失点を重ねる度に6万8千人の観衆からトイレットペーパーや小石が投げ込まれ、国立競技場の備え付けのトイレットペーパーはなくなってしまった。また、アーセナルの選手がミスをする度に日本人観衆が嘲笑し、初の日本遠征となったアーセナルは非常に悪い印象を残して離日したという。それ以来この人気チームは日本を訪問していない。
 アルセーヌ・ベンゲルのアーセナルへの監督就任の際も滞日経験が懸念されたという。フランスで5月革命が起こり、学生、労働者が蜂起していた時期に、日本人はトイレットペーパーと嘲笑をサッカーの母国の名門クラブに浴びせていたのである。
 ところが、その5カ月後、日本サッカーチームはメキシコオリンピックで3位に入るとともにフェアプレー賞を受賞する。オリンピックという出場制限のある大会での上位入賞に対する評価を疑問視するむきもあるが、フェアプレー賞は間違いなくワールドレベルでの評価である。
 そして、その30年後、フランスでワールドカップが開催され、日本が初出場した。スタジアムを青一色に染め、試合終了後掃除をする礼儀正しいサポーターが話題になる反面、フィールドの上のイレブンはほとんど注目されることなくフランスを去った。

■フェアプレー推進の中で問題となる日本のファウルの多さ

 唯一フィールドの中で話題になることといえばファウルの多さである。フェアプレーの推進が世界的なトレンドである。リーグ戦の順位は勝ち点、得失点差、得点数、直接対決の成績の順で決定されるのが通常であるが、5番目の要素としてフェアプレーポイントを導入する動きがあり、注目されている。これは退場、警告の数だけではなくファウルの数なども勘案する意見が出されている。さらに、選手の疲労、テレビ中継などの要素が加わるノックアウト方式のトーナメントでも、 90分で同点の場合、延長、ゴールデンゴール、 PK戦という流れに変えてフェアプレーポイントで勝者を決定する動きがある。
 グループリーグ3試合で日本はファウルの数まで考慮したフェアプレーポイントで最下位、個人別ファウルの数でも日本チームからは2位と7位に入っている選手がいる。
 結局、長い間世界レベルで認識されなかった日本サッカーの絶好のPRの機会であったが、「ファウルを重ねて最小得点差で3連敗したチームを応援するために、チケットを持たない礼儀正しいサポーターが大挙した国」ということが一部の人に認識されるにとどまったのであろう。

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