第24回 好調なシーズンチケット販売の理由

■観客動員を支えるのはシーズンチケット

 フランスリーグは開幕して第2節まで消化した。マルセイユの久々の優勝なるか、昨年初優勝のランスの連覇はなるか、など見所は多い。ワールドカップ優勝から1カ月もたたない8月7日と8日に行われた開幕戦は異例の観客動員を記録し、1試合当たりの平均で20,158人を動員した。中でも、ナントを迎えたマルセイユのスタッド・ベロドロームには56,000人、パリサンジェルマンを迎えたボルドーのレスキュールには35,000人もの観客が押し寄せ、両競技場とも強敵を迎えながらもホームチームが快勝、幸先よいシーズン開幕となった。連勝でスタートしたのは、この両チームとモナコの3チームだけである。
 フランスのサッカー界においては、ファンの多くがバカンスをとって地元を離れているため、夏場は観客動員がのびない。この時期に平均2万人以上の観客動員をしたことは、ワールドカップで優勝したフランスサッカーに対する国民の期待の現れと言えよう。
 さて、この観客動員を支えているのがシーズンチケットである。チケット販売の7割はシーズンチケットであるといわれている。シーズンチケットは顧客の固定化を考える上ではチームの経営には欠かせない要素であり、チームの経営の一つの指標であるとも言える。また、ファンにとっては、シーズンチケットは割引や各種の特典があるだけではなく、所有者はサッカーファミリーと見なされる。今回のワールドカップでは、シーズンチケットの所有者にも「FRANCE PASS 98」といわれる通し切符の購入権が与えられた。

■今季フランスリーグは前年比30%の伸び

 このシーズンチケットの販売が今季は好調である。シーズン開幕の時点ですでに14万枚も売れており、前年に比べて30%も伸びている。これをワールドカップ効果と評する声もあるが、クラブ別に分析するとワールドカップ優勝とこのシーズンチケットの好調な販売は無関係であることがわかる。
 まず、シーズンチケットの販売を大きくのばしたのは1部18チーム中の6チームだけである。驚異的なのは6年ぶりの優勝を狙うマルセイユで36,000枚(前年17,087枚)。昨年優勝したランスは20,000枚(前年9,000枚)、ランスと同勝ち点ながら得失点差で2位に甘んじたメッスも8,200枚(前年4,000枚)と大きくシーズンチケットの販売をのばした。
 さらに1部昇格組も規模は小さいながら、ロリアンは5,100枚(前年1,200枚)と4倍以上、ナンシーも2,500枚(前年1,100枚)、ソショーは2,700枚(前年1,451枚)と倍増、ファンの期待が数字に表れている。この6チームが今季のシーズンチケット販売の伸びの原動力となっている。この6チーム以外に前年よりもチケットのセールスを伸ばしたクラブはレンヌ(4,750枚、前年は3,400枚)だけである。

■ワールドカップ効果は、チケット販売に直接影響していない

 一方、残りの11チームは前年よりも販売枚数が減っている。例えば、フランスカップとリーグカップは獲得したもののリーグでは8位にとどまったパリサンジェルマンは、シーズンチケットの販売が不振で、前年より1割減の19,000枚(前年21,500枚)にとどまった。また、久しぶりに二桁順位の11位に低迷したナントも7,500枚(前年10,019枚)と大台を割り込んだ。
 ワールドカップの10の開催地でホームチームのないサンドニと2部リーグに所属しているサンテエチエンヌを除くと、チケットセールスが伸びたのはマルセイユとランスだけであり、日本が試合を行ったトゥールーズ、ナント、リヨンはいずれも昨年の販売数に届いていない。
 また、ワールドカップに出場したフランス人選手でチケットセールスを伸ばしたチームに所属しているのはマルセイユのローラン・ブランとクリストフ・デュガリー、メッスのロベール・ピレスだけ。残りの6選手の所属しているオセール、パリサンジェルマン、モナコはシーズンチケットの販売で苦戦している。さらに、チケットの販売された時期を分析すると例年よりも販売の出足が早く、ワールドカップでフランスが優勝する前にかなり販売が伸びている。

■シーズンチケットの売れ行きは、クラブに対する期待感の現れ

 以上のような観点から分析すると、シーズンチケットの販売はワールドカップの開催や優勝という「クラブ外の要因」ではなく、前年度の順位(ランス、メッス)、今季の戦力(マルセイユ)、1部への昇格(ロリアン、ナンシー、ソショー)という「クラブそのものの要因」が大きく作用しているのである。
 しかしシーズンチケットとは言っても、文字どおりの年間チケットだけではなく、冒頭に紹介したとおり夏場にはバカンスに出かけ、地元に帰ってきてから週末にサッカーを楽しもうとする人のためにバカンス時期を除外したチケットも設定されている。9月はシーズンチケット販売の最後のチャンスである。したがって、各クラブとも夏場の試合である程度の成績を残し、バカンス明けのファンの獲得を狙っている。さて、秋になって多くのシーズンチケットを販売することができるのはどのクラブであろうか。

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