第50回 1998-99シーズン回顧録

 ワールドカップ初優勝を飾り、世界チャンピオンとして初めてのシーズンとなった1998-99シーズン。話題には事欠かないシーズンであったが、振り返ってみることにしよう。( )内は本連載で取り上げた回を指している。バックナンバーをご参照いただきたい。

■最後まで白熱のマッチレースを展開したリーグ戦

 フランスのサッカーを支えるフランスリーグ(第22回)はボルドーとマルセイユが最終節までマッチレースを繰り広げた(第48回)。10月の第8節以来この両チームが1位と2位を独占し、この間勝ち点に最も差が付いたときでも4であり、歴史に残る接戦となった。
 ボルドーはシルバン・ビルトールとリリアン・ラスランドの2トップの攻撃力が優勝の原動力となった。22点で得点王に輝いたビルトール(第35回)は最終戦でも2得点を上げる活躍をしたが、開幕からの5試合連続得点はチームを勢いづけた。またラスランドも15点をマークし、得点ランキングで3位に入るとともに、最終戦の残り1分でパスカル・フェインデューノに出したパスが栄光のゴールにつながるなどの活躍で、アシスト王を獲得した。
 ボルドーの得点は66、このうちの半分以上をこの二人がマークしたことになるが、それ以外の選手が29点も記録しているということも忘れてはならない。2トップだけではなく中盤のミッシェル・パボン、アリ・ベナルビア、ジョアン・ミクーなどの存在が厚い攻撃を支えた。中盤以上で球を回し、ゴールを量産するというスペクタクルなサッカーはこの数年見かけなかったエレガントで、しかも勝つ、というフランス人好みのサッカーを実現した。まさにこのコーナーのリード文の通りである。
 一方、2位のマルセイユ、失点は28とリーグ最小でローラン・ブランを中心とした守備のチームというイメージが強いが、クリストフ・デュガリー、ロベール・ピレスといったフランス代表の攻撃陣はボルドーに次ぐ53得点でリーグで2位。(ちなみにボルドーの失点は29でこれもリーグ2位)新装なったベロドロームには久々の栄光を期待するファンが押し寄せ、4月30日のリヨン戦では57,740人というフランスリーグ史上最多の観客を集めた。

■欧州のカップ戦では、好調の3チームがUEFAカップ上位に

 ボルドーとマルセイユが評価できるのはUEFAカップでも上位に進出したことである(第46回)。マルセイユが凋落するきっかけとなった1993年の八百長事件は過密日程にも原因があるとされ、日程の緩和が国内リーグと欧州三大カップでの活躍を支えたことも忘れてはならない。
 フランスのチームはチャンピオンズリーグ(ランス、メッス)、カップウィナーズカップ(パリサンジェルマン)、インタートトカップ(オセール、バスティア)で早々と敗退した(第27回、第34回)のに引き替え、UEFAカップでは今シーズンのリーグ上位を占めたマルセイユ、ボルドー、リヨンがベスト8入りした。また、モナコもベスト16決定戦で準優勝したマルセイユと対戦していなければ上位進出のチャンスはあったであろう。シーズン早々に危惧されたフランスのUEFAランキング(第27回)は前年通り4位をキープ。フランス勢のUEFAカップでの活躍により単年度で見ると3位となり、久しぶりにフランス勢がウィークデーの欧州を熱くした。
 ボルドーとマルセイユばかり注目を集めたが、リヨン(第15回)、モナコ、レンヌなどの上位チームの活躍もリーグを盛り上げた。今まで上位の常連ではなかったレンヌは大スポンサーがつき躍進をした。一方、元気がなかったのはオセールとパリサンジェルマンである。オセールは最終節まで2部リーグ落ちの危機に瀕し、パリサンジェルマンは久しぶりに欧州三大カップの出場権を獲得できなかった。両チームの来季の巻き返しを期待したい。

■世界チャンピオンになったことの影響

 一方、世界チャンピオンとなった代表チームは、来年の欧州選手権を目指し予選を戦い、その模様は適時本連載(第25回、第27回、第29回、第30回、第44回)で紹介してきた。モスクワ(第29回)とロンドン(第39回)でのアウエー初勝利という偉業はあるものの、もたつきの見られる1年であった。ついに6月5日にはロシアに逆転負けを喫し、スタッド・ド・フランスでの初黒星となり、6月9日にバルセロナで行われたアンドラ戦では終了5分前までノースコア、85分にようやくフランク・ルブッフのPKで決勝点を上げるという薄氷の勝利。予選グループ4は残り3試合でトップはウクライナ(勝ち点15)、フランスは2位(勝ち点14)、ロシアとアイスランドも勝ち点12で追っている。
 しかしながら、ワールドカップの感動を再び求めて多くのファンが代表チームの試合に押し寄せていることは特筆すべき事項である。スタッド・ド・フランスをホームスタジアムとするクラブチームはないが(第4回)、フランス代表が欧州選手権の予選で全試合使用することになった。この結果、フランス代表はホームで4試合(予選3試合+マルセイユでのモロッコとの親善試合)戦い、358,328人の観衆を集め、1試合平均71,665人にのぼった。これは欧州ではイングランド(1試合平均67,056人)を抑えて1位である。ちなみに3位はスペイン(39,166人)、4位はドイツ(37,532人)、5位にはグループ1で1勝もできず最下位のベラルーシ(33,500人)、6位はアイルランド(30,383人)で、代表チームが平均3万人以上の観客を動員しているのはこの6か国だけである。長らく低迷していたフランス代表の人気も今回の優勝で一気に復活することとなった。
 ワールドカップ効果は代表チームだけではない。シーズンチケットの販売が好調(第24回)で、フランスリーグの観客動員数は1試合平均で1万9771人と新記録を達成した。1990年代のはじめは1万人強であったが、年々増加し、10年間でほぼ倍増した。特にランス(第34回)、パリ、マルセイユなどのワールドカップ開催地とともにレンヌは集客率80%以上を記録した。来年は人気チームのサンテエチエンヌが1部に復帰してくる。1試合平均観客動員が2万人を越えるのは確実視されている。
 ツール・ド・フランス(第21回)に熱狂する毎日であるが、7月31日のシーズン開幕が待たれる今日この頃である。

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