第59回 ようこそ、ムラタ

■第4回ラグビー・ワールドカップ、フランスが決勝へ

 今年行われた世界的なスポーツイベントの中で、セビリアでの世界陸上選手権とならび4回目を迎えたラグビーのワールドカップも忘れてはならない。1987年にニュージーランドとオーストラリアで行われ、1991年には欧州の五か国、1995年には国際スポーツへの復帰なった南アフリカ、そして今回はまた欧州の五か国で行われている。フランスでもスタッド・ド・フランス、ランスのフェリックス・ボラール、トゥルーズのミュニシパル、ボルドーのレスキュールというこの連載でもお馴染みのワールドカップ開催地に、ラグビーどころベジエのメディテラネ・スタジアムを加えた5会場で8試合が行われた。
 フランスは1997年には準優勝、1991年位は準優勝したイングランドに準々決勝で敗れたが、1995年大会では3位と、北半球の国の中では最も安定した成績を誇っている。今大会でも準決勝で優勝候補筆頭のニュージーランドに見事逆転勝ち、決勝の相手はオーストラリアとなった。大会史上最高の試合といわれた1987年大会準決勝の相手であるオーストラリアとの決勝が楽しみである。

■欧州でレベルが高いフランスのクラブ

 創生期のサッカーのワールドカップがそうであったように、ラグビーのワールドカップも世界のラグビーシーンを急速に変化させた。代表チームレベルでは五か国対抗中心であることは変わらないが、シーズン直後の初夏に北半球のチームが南半球に遠征し、秋に南半球のチームが北半球を訪問するスケジュールが定着した。
 特に前回大会直後の1995年9月、国際ラグビー機構(IRB)はプロ化を容認し、外国人選手がイングランドやフランスのビッグクラブに集中し、トップクラスのプレーヤーのレベルが向上した。そして同時に、欧州でも他のスポーツ同様クラブレベルの国際大会(ヨーロッパカップ)が行われるようになり、南半球の「スーパー12」に対抗するようになった。
 1995-96シーズンに始まったヨーロッパカップでは、フランス代表のトゥールーズがカーディフのアームズパークで地元カーディフを延長の末21-18で破り、初代王者についた。翌年もブリーブがカーディフでイングランド代表のレスターを28-9で破り、フランス勢が連覇した。また3年目の1997-98シーズンにはベスト4のうち3チームをフランス勢が占めた。従来のサッカーのUEFAカップのように各国のリーグの力に応じて複数のチーム(1999-2000シーズンはフランスからはイングランドとならぶ最多の6チーム)が参加するため、このような現象が起きたのである。
 準決勝でポーはイングランドのバースに負けたものの、フランス勢同士の戦いとなったブリーブ-トゥルーズ戦は延長の末、22-22で譲らず、結局トライ数の差でブリーブが決勝に進出した。ボルドーで行われた決勝ではブリーブはバースに18-19で惜敗したが、同時に行われたヨーロッパコンフェランスでも決勝はフランス勢同士(コロミエがアジャンに43-5で勝利)と、フランスラグビーのレベルを高さを示した。1998-1999シーズンも優勝こそアイルランドのアルスターに譲ったが、準優勝はコロミエ。残りの準決勝進出チームはスタッド・フランセとペルピニャン。2年連続してベスト4のうち3チームはフランスのクラブであった。

■進む国際化、精鋭の集まるフランスリーグ

 このようにフランスのラグビークラブのレベルは非常に高く、その国際化も進んでいる。今回のワールドカップにおいてもフランス代表30人全員がフランスのクラブに所属しているのに加えて、他国の代表選手が41人もおり、フランスリーグから71人がワールドカップに出場していることになる。これはイングランドリーグの75人(イングランド代表30人、他国代表45人)に次ぎ、南半球の強国ニュージーランドの54人(ニュージーランド代表30人、他国代表24人)を上回る世界第2位の数字である。41人の他国代表の内訳もルーマニア12人、イタリア9人、スコットランド6人など9か国にわたっている。
 フランスリーグは「エリート1」といわれる1部24チーム(12チームずつの2プール)が最上位であり、今回のフランス代表30人全員がこのレベルに属している。また外国人選手も多く、国別で見るとイングランドの23人を筆頭にニュージーランドとルーマニアが19人、スコットランドが14人、イタリア11人、南アフリカとアルゼンチンが10人、フィジー7人、オーストラリア5人など、北半球だけではなく南半球からも精鋭が集まっている。
 1部リーグ24チームが抱える外国人選手は25か国154名にのぼる。注目すべきは、前述した世界中の強国だけではなく、ドイツ、クロアチアといった弱小国からの選手もおり、アフリカのナイジェリア、コートジボアールなどの選手もいる。サッカーの世界ではアジアに所属しているカザフスタン(ワールドカップ予選には不出場)の選手もいる。しかしながら今回のワールドカップ予選でアジアゾーンに所属している国の選手がいないのは残念である。

■“ジャパンの村田”アビロン・バイヨンヌに移籍決定

 ところが12月から、今回のワールドカップにも出場した日本の村田亙が2部にあたるエリート2のアビロン・バイヨンヌに東芝府中から移籍することが決定した。本連載の読者の方ならばこのクラブの名前はご存じであろう。アマチュア時代のディディエ・デシャンが所属していたクラブである。2部とは言ってもレベルは高い。先述した41人の他国代表になったフランスでプレーする選手のうち36人は1部に所属しているが、2部のチームにも代表選手がいる。スペインの左フランカーとして8月の日本戦と今回のワールドカップに出場したオスカル・アスタルロアもバイヨンヌの同僚となる。東芝府中というと1990年2月から3月にかけてスペイン、フランス遠征を行い、フランス代表と同じ三色旗のユニフォームは各地で厚い歓迎を受けた。
 今回のワールドカップの自国代表30人全員が国内のクラブに所属し、かつ国内に他国代表選手がいる国はフランス、イングランド、ニュージーランド、オーストラリアと日本だけである。また日本のクラブに所属する他国代表は12人であり、今回のワールドカップに出場した選手のうちで日本のクラブに所属する選手は42人、世界で4番目の勢力である。予選プールでいいところなく敗れた日本ラグビーであるが、村田の活躍に注目しよう。

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