第64回 モナコの快進撃

■昨シーズン後半からの好調を維持

 ミレニアムを迎え、好調なフランス経済を象徴するかのようなエッフェル塔での大スペクタクルをテレビでご覧になった日本の読者の方々も多いであろう。
 さて、このミレニアムを迎えるに当たり最も好調なチームが今回紹介するモナコである。1月15日の第22節を終了した時点で勝ち点48で首位。これを追うチームは、パリサンジェルマン、オセール、リヨンが勝ち点38で並んでいる。シーズン前期待されたマルセイユは10位(勝ち点28)に低迷し、主力選手は次々と移籍、チームは崩壊状態である。勝ち点の差だけで見るとパリサンジェルマン、オセール、リヨンにも逆転の可能性はあるが、モナコとライバルの間には試合内容に大きな差がある。モナコの得点は48(1試合平均2.18)、2位のボルドー、パリサンジェルマンの33を大きく引き離し、一方、失点も19と最小であり、1試合の平均失点が1点未満であるのはモナコ(0.86)だけである。
 実はモナコの好調な波は今季からではなく、昨シーズンの後半からのものである。昨シーズンは、ボルドーがマルセイユとのマッチレースを制して12年振りに優勝した(本連載の第48回を参照)。シーズン前半からこの2チームが首位と2位を独占し、それ以外のチームにはまったく付け入るすきがなかったと思われた読者の方も多いであろう。しかし、昨シーズンの年末年始休暇以降の14試合での勝ち点を見てみると、トップはなんとモナコ(勝ち点34)、優勝したボルドーは勝ち点28でリヨンについで2位、優勝を逃したマルセイユはレンヌについで5位である。モナコは昨シーズンのカップ戦でも早々に敗退しており、14試合で勝ち点34という昨年前半のリーグ戦での驚異的な成績は、意外なものとして受け取られた。

■充実している攻守の要

 しかし、今シーズンはまさに「モナコ強し」である。この快進撃を支えているのは、攻撃陣ではパリサンジェルマンから移籍してきたイタリア代表のマルコ・シモーネである。ACミラノの一員としてインターコンチネンタルカップに訪日したこともある大物FWは、パリサンジェルマンでは期待はずれであったが、モナコに移り大ブレーク。今シーズンは15得点をマークし、リヨンのソニー・アンデルソンと並び現在得点ランキングトップである。自ら「全盛期のミラノに在籍していたときと比較してもこれ以上好調な自分を知らない」とコメントしている。ちなみにシモーネのシーズン最多得点はACミラノ時代の1994-95シーズンの17得点である。またシモーネとコンビを組むもう一人のFWは得点ランキング3位のダビッド・トレズゲ。この二人は、1試合平均得点が2点以上という強力な攻撃陣となっている。
 この攻撃陣に生きた球を供給するのがリバープレートから今季移籍してきたマルセロ・ガジャルドである。この左サイドの魔術師は、テクニック面では間違いなくフランスリーグの中でトップである。ボランチにはサブリ・ラムーシ。オセール時代からその運動量には目を見張るものがあったが、モナコで経験と細やかな技術が加わり、「ポスト・ディディエ・デシャン」の筆頭候補である。
 最終ラインにもウィリー・サニョル、フィリップ・クリスチャンバル、チリ代表のパブロ・アンドレアス・コントレアスなど役者が揃っている。しかし、なんといっても1試合平均失点をコンマ以下に抑えているのは、ゴールマウスを守るファビアン・バルテスを抜きには語れない。一昨年のワールドカップ前は経験の浅さを疑問視する声があったが、ワールドカップでのフル出場がバルテスを大きく成長させた。レキップ紙の1999年の世界のベストイレブンにもフランス人として唯一選出されており、いまや国内だけではなくワールドレベルでも無敵のゴールキーパーである。

■アウェーゲームを苦にしない秘密

 モナコというと、王室をバックに裕福なクラブ運営をする一方、市民のサッカー熱は高くなく、毎年観客動員数は最下位である。昨年の1試合平均観客動員数はわずか6500人。首位を走る今年も1万人以下である。モナコというチームが魅力的であるということはアウェーゲームでの観客動員がベスト3に入っていることからもよくわかる。しかしながら、地元モナコではシーズンチケットはわずか900枚しか売れておらず、欧州でも屈指の設備を備えているルイ2世スタジアムが満員(2万人)になるのは年に1回、マルセイユが大応援団を引き連れて来たときだけである。ホームゲームとはいっても大声援は期待できず、観客が多い時は決まってビジターのチームの応援である。このホームアドバンテージの欠如が非常に興味深い数字を示している。
 それはアウェーゲームに苦手意識を持たないという点である。慣れないグラウンド、移動の疲労などにまして、ホームゲームでは味方に付けている声援が相手のものであるという点がアウェーゲームにおける12人目の敵である。ホームゲームで地元の大声援がないモナコの選手にとっては、アウェーゲームでの相手の大声援もマイナスの要素とはならない。今シーズンのアウェーゲームも6勝4敗と勝ち越している。しかも「アウェーゲームで勝つ場合は最小得点差」というセオリーとは異なり、大差をつけての勝利が多く、なんと得点22、失点12で得失点差は+10、モナコ以外に勝ち越している唯一のチームであるリヨン(5勝2分4敗)が得点12、失点14で得失点差は-2であることを考えると、モナコのアウェーゲームでの強さが光る。
 さて、モナコを率いるジャン・ルイ・カンポラ会長は医師で、病院の院長でもあり、1974年からこのクラブの会長職にある。1993年からはモナコの地方議会の議長という要職にある。昨年末にカンポラ会長はモナコが優勝すれば10年は人々の記憶に残ると発言した。もしそうならば、現在世界中で話題になっている2000年から始まる10年間の呼称は、フランス語では「モネガスク(「モナコの」という形容詞)」と称されるであろう。

このページのTOPへ