第178回 マルタ、イスラエルと連戦(7) あと一歩の本大会出場に燃えるイスラエル

■プレーオフでデンマークに敗れた2000年欧州選手権予選

 欧州での中堅国としてのステータスをつかんだイスラエルは、2000年欧州選手権の予選で夢と現実の両方を経験した。イスラエルの属するグループ6の本命はスペイン。2位チームはプレーオフに出場できるため、2位狙いのイスラエルの現実的なライバルはオーストリアである。初戦でスペインがキプロスに敗れるという波乱の幕開け。そしてイスラエルは初戦でアウエーのオーストリア戦。この試合を引き分けに持ち込み、イスラエルのプレーオフ出場は現実的なものになった。初戦で伏兵に足元をすくわれたスペインは残り7試合を全勝してグループ1位を確定、イスラエルとオーストリアが2位を争った。1999年6月6日のホームでの戦いでイスラエルは5-0と大勝。続くサンマリノ戦も8-0と大差で勝利したイスラエルは、オーストリアと勝ち点で並んだが、得失点差で上回り、プレーオフ出場が決定したのである。プレーオフの相手はデンマーク。しかしながらテルアビブでの第1戦で0-5と大敗し、アウエーでの第2戦も0-3と連敗し、初の欧州選手権本大会出場は実現しなかったのである。

■アジア予選のライバル国で行われるワールドカップへの道

 2002年のワールドカップはかつてイスラエルがアジア予選でしばしば対戦した日本と韓国が舞台である。この予選でイスラエルは2000年欧州選手権予選に引き続き、奇しくもスペイン、オーストリアと同じグループ7に入った。残る2チームはボスニア・ヘルツェゴビナとリヒテンシュタインであり、この2チームに対しホーム、アウエーで勝利し、なんとかスペインとオーストリアから勝ち点を奪うことができれば、32年ぶりのワールドカップも不可能ではない。両ライバルとはまずアウエーで対戦し、連敗する。下位チームとの対戦で勝ち点を積み重ね、スペインとはホームで引き分けるという定石通りの予選での戦いを進め、いよいよ最終戦がやってきた。最終戦はオーストリアとテルアビブで2001年10月7日に試合を行うことが予定されていた。この段階で2位オーストリアは勝ち点14、得失点差+2、3位イスラエルは勝ち点11、得失点差+4、つまりイスラエルは勝てばプレーオフ出場である。

■オーストリアと直接対決する最終戦が延期

 しかし、この年9月11日に米国でいたましい同時多発テロが発生したことが、イスラエルのサッカーの歴史を再び変えてしまう。この「9.11」以降、世界各地でテロへの恐怖から飛行機などの運行に特別な警備がなされることになった。その結果として、世界各地で佳境を迎えていたワールドカップ予選は予定通り行われ、日本代表も10月上旬に英仏に遠征し、セネガル、ナイジェリアと対戦している。
 ところが、オーストリアの選手がイスラエルへの遠征を治安上の理由で辞退した。代表に招集された選手が遠征を拒否するということは、サッカー協会からの出場停止などの処分を覚悟しての行動であろう。彼らの辞退には賛否両論があったが、彼らの辞退を正当化するような事件が起こった。このイスラエル-オーストリア戦の直前、テルアビブからロシアのノボシビルスクに向かうシベリア航空機がウクライナのミサイルに打ち落とされ、黒海に墜落するという事件が起こった。軍事演習中のウクライナ軍の誤射によるものとされているが、命を落とした乗客の大半がユダヤ人であったため、メディアではテロの恐れもあると報じられた。この旅客機墜落事件を受けて、FIFAは緊急委員会を開催し、テルアビブで行われる予定の試合の延期を発表したのである。

■ロスタイムに同点ゴールを許し、希望は嘆きへ

 試合は10月27日に延期されて行われた。セキュリティは保証されたものの、オーストリアは主力14人を欠く陣容でテルアビブに乗り込んだ。4万人の大観衆の声援を受けてイスラエルは55分にシモン・ガーションがPKを決めて先制する。試合は後半になり激しくなり、前半に1枚も出されなかったイエローカードが後半だけで9枚出される。そして時計は90分を過ぎる。後に仁川でのフランス-ポルトガル戦で笛を吹くことになるポルトガル人のビトール・マニュエル・メロ・ペレイラ主審がこのまま笛を吹けばトルコとのプレーオフが待っている。しかし、92分にアンドレアス・ヘルツォークがFKから同点ゴールを記録し、イスラエルの希望を嘆きへと変えたのである。
 「たら」「れば」は禁句であるが、もし10月7日に試合が予定通り行われていれば、イスラエルが快勝したかもしれない。そして同時多発テロやシベリア航空機の墜落事件がなく、オーストリアがベストメンバーでテルアビブに乗り込んで試合をしても、イスラエルが勝ったかもしれない。
 欧州に定着して中堅国としての地位を築きながらも、やはりイスラエルには政治の影が付きまとうのである。そして今回もまた国内情勢の悪化で国外でのホームゲームを余儀なくされているのである。あと一歩に泣いた過去2回の予選、今度こそ、と言うイレブンの士気は高いはずである。(この項、続く)

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