第775回 フェロー諸島、リトアニアと連戦(3) ティエリー・アンリ、将軍を超える、フランス首位に立つ

■失望感に包まれたフランスに帰国したイレブン

 荒天の影響で苦労してたどり着いたフェロー諸島での試合は前回の本連載で紹介したとおり、6-0とフランスが大勝した。そしてライバルのスコットランドは難敵ウクライナに勝利、イタリアもグルジアを下して上位チームが確実に勝ち点を伸ばし、この段階でウクライナが脱落した。
 フェロー諸島戦で大勝したフランスは、往路と異なり帰路は苦労なく帰国するが、フランス国内はすっかり意気消沈していた。それは、フェロー諸島戦の後の夜に行われたラグビーのワールドカップ準決勝のイングランド戦はノートライに押さえ込まれ、逆転負けを喫したからである。

■最後のホームゲームはラグビーの影響でナントで開催、ストに遭遇

 失望感で包まれたフランスの地に再び光を与えるのが、フェロー諸島から戻ってきたイレブンの役割である。リトアニア戦はフランスにとって今大会予選最後のホームゲームである。ところが、ラグビーのワールドカップはまだ3位決定戦(パルク・デ・プランス)、決勝(スタッド・ド・フランス)が残っているため、地方都市での開催となり、ナントのボージョワール競技場で行われることになった。このボージョワール競技場でもラグビーのワールドカップは開催されたが、3試合に使用されただけで、9月29日のウェールズ-フィジー戦が最後であり、芝の状態に問題はない。
 ところが、ここでまたも難問が持ち上がる。それはニコラ・サルコジ新大統領の公共企業に対する年金改革に反対し、フランス国鉄をはじめとする多数の公共交通機関の労働組合が17日の夜からストに突入したのである。フランス国鉄のストは通常、夜から始まる。したがって、パリなどのファンは試合を見に行くためにTGVアトランティックに乗ってナントに行くことはできても帰りの交通機関が確保できない。

■スコットランドの意外な敗戦、フランスも前半は無得点

 そのような中でもチケットは前売り完売で、3万5000人近くの観衆が集まった。そしてその大観衆は目の前の試合だけではなく、その段階の首位であるスコットランドがグルジアに遠征して行う試合にも注目していた。時差の関係もあり、ナントでの試合が始まる前にこのグルジア-スコットランド戦は行われたが、グルジアが2-0と勝利し、スコットランドは貴重な勝ち点を逃してしまったのである。
 このナントはフランス代表にとっては相性のいい都市で、これまでに7戦行い、6勝1分と負けなし、1971年以降は失点も喫しておらず、現在4連続完封勝ちを続けている。そしてこれまでに多くの代表選手を生み出してきた。今回のメンバーにはナントの選手はいないが、GKのミカエル・ランドローは、現在はパリサンジェルマンの選手であるが、代表デビュー時はナントの選手であり、スタンドから万雷の拍手を受けた。
 さて、楽観的なムードの中で試合は始まり、フランスは試合開始直後から試合を支配し、攻め続けるが、なかなかゴールを奪うことができない。思いのほか苦戦してしまう。ボールの試合率は65%を超えたが、リトアニアのカウンターアタックに守備陣が肝を冷やすこともしばしば、前半は両チーム無得点に終わる。

■残り10分でティエリー・アンリが2得点、フランスはグループBの首位に

 後半に入っても試合展開は変わらない。攻めるフランス、反撃のチャンスをうかがうリトアニア、ゴールネットを揺らすことなく時計の針は進んでいく。そして70分になり、勝ち点3の欲しいレイモン・ドメネク監督は4日前の代表デビュー戦で得点を挙げたラッキーボーイのハテム・ベンアルファを投入する。残り20分の勝負となったが、この采配が的中する。80分にベンアルファからのセンタリングをティエリー・アンリがあわせて待望のゴールが生まれた。そしてこのゴールによりアンリは代表42点目、将軍ミッシェル・プラティニを抜いて通算得点で単独首位となったのである。そしてアンリは止まらなかった。ゴールの歓声が静まりやまぬ81分に今度はジェレミー・トゥーラランからのパスを決めて追加点となる。実はトゥーラランも2年前まではナントに所属していた選手であり、当時を知るファンを歓喜させる。そしてランドローはリトアニアのカウンターアタックを防ぎ、無得点に押さえる。
 フランスは、グルジアに敗れたスコットランド、この日試合のなかったイタリアを抜いて、グループBの首位となったのである。(この項、終わり)

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