第2回 フランス代表、初のアンデス越え(2) 南米勢との対戦が目的の大遠征

■不振のチリと対戦する理由

 このように過去3回の対戦でフランスの2勝1敗という戦績のチリであるが、今回のワールドカップ予選では苦戦している。第14節を終了した時点で3勝2分9敗(勝ち点11)で10チーム中9位、南米予選は4位までが本大会出場で、5位はオセアニア代表の豪州とプレーオフに回る。現在5位のウルグアイの勝ち点が21であり、残りは4試合、チリのワールドカップ本大会出場の可能性はほとんどないと言えるであろう。
 しかし、なぜこのような成績のチームを選び、しかもアウエーゲームを行うのだろうか。実はフランスは非常に戦略的なマッチメーキングをしているのである。フランスは来年のワールドカップに向けて欧州だけではなく様々な大陸で親善試合を予定している。アジアに関しては6月のコンフェデレーションズカップで経験済みであり、アフリカに関しては昨年10月にカメルーン、南アフリカと連戦している。そして南米は今回のチリ戦、オセアニアは11月にメルボルンを訪問し豪州と対戦することが予定されている。南米相手の試合と言うとブラジルには現在連勝中であるが、忘れてならないのは1998年のワールドカップ決勝トーナメント1回戦のパラグアイ戦である。ランスで行われたこの試合でフランスは大苦戦、延長後半に入ってDFのローラン・ブランがようやくゴールデンゴールを決めて勝利をものにした。この試合はホセ・ルイス・チラベルトを中心とするパラグアイの堅守が光り、ブランの攻撃参加がなければフランスのサッカーの歴史も変わっていたかもしれない。
 パラグアイ戦の苦戦を教訓として、世界の様々なサッカーを経験することがフランス代表としても、各選手にとっても必要であると言う観点から、今回のチリ戦が組まれたのである。

■アンデス越えのメンバーとスケジュール

 さて、チリ遠征メンバー19人の顔ぶれはデンマーク戦の18人からファビアン・バルテスとバンサン・カンデラが負傷で離脱し、GKにリオネル・レティジ、グレゴリー・クーペが加わり、フィールドプレーヤーではクロード・マケレレもほぼ2年ぶりに代表に復帰した。アルゼンチンで行われたワールドユースで活躍したジブリル・シセの抜擢も予想されたが、シセは9月5日にブレストで行われるスペインとの五輪代表戦に出場することになった。
 チリまでの道のりは長い。ちょうどいい時間帯の直行便がないことからフランス代表としては異例のことであるが、スペインのイベリア航空を利用した。月曜日の27日の夜にオルリー空港を立ち、同日深夜にマドリッドに着き、サンチアゴ行きに乗り換え、サンチアゴ到着は翌朝となる。試合前の3日間練習に費やし、試合は土曜日の午後3時(フランス時間同日午後9時)キックオフである。試合の翌日はサンチアゴで休養し、フランスに戻ってくるのは月曜日の夕方である。したがって選手は1週間以上、所属チームを離れ代表チームに拘束されることとなるが、これが重要なチームづくりのためのチャンスとなるのである。
 1994年のチリ戦同様、選手たちの代表ユニフォームへの忠誠心は強い。あのチリ戦が後の1996年欧州選手権ベスト4、1998年ワールドカップ優勝、2000年欧州選手権優勝という栄光へのステップとなったのである。ジャン・ピエール・パパンの復活に国民は勇気付けられたリヨンでのあの戦いを忘れてはいないのである。(続く)

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