第16回 フランス、オセアニアに初遠征(4) 初対決のドリームチームとドロー

■バルテスとデュガリーのデビュー戦となった神戸での初対決

 フランスは今まで豪州との対戦は2回。最初は1994年5月の神戸でのキリンカップである。この年のキリンカップは最後の最後でアメリカ行きの切符を逃した3チームが対戦した。実はこの時は当初アルゼンチンとフランスが訪日する予定であったが、アルゼンチン選手の麻薬持ち込み問題によりアルゼンチンは参加を断念、豪州が代替出場したという歴史がある。1985年のユニバシアードのメイン会場でもあった神戸ユニバー記念陸上競技場での試合は雨にたたられ、ピッチ状態は非常に悪く、「これ以上悪いピッチで試合をしたことがない」という評価をフランスの選手から受ける。そして、震災の傷跡も残る神戸市は来年のワールドカップに向けて新たに競技場を建設することになったのである。
 そのような悪いピッチ状態であってもなんとか帳尻をあわせたのがフランスである。前半終了間際にエリック・カントナがヘッドでゴールにたたき込み、この試合でデビューとなったファビアン・バルテスとクリストフ・デュガリーが活躍し、特にバルテスは最後の5分間に決定的なピンチを立て続けに3連続で防ぎ、その後の成長の好スタートとなったのである。

■韓国での歴史的な敗戦

 そして2回目の対戦は記憶に新しい今年6月1日の韓国・大邱でのコンフェデレーションズカップ。初戦で韓国に5-0と大勝したフランスは第2戦はメンバーをがらりと替え、5人の選手が代表にデビューした。フランスも豪州もこの大会にイタリアやスペインのリーグに所属する選手を送ることができず、その中での選手の入れ替えを行い、ベストメンバーにはほど遠いという条件では豪州と同じであった。試合は後半に入り、60分に豪州のクレイトン・ゼインがこの試合唯一の得点を上げ、フランスは欧州・南米以外の国に初めて敗れたのである。また南米以外での遠征で負けたのもこれが初めてであった。しかし、収穫は代表にデビューしたグレゴリー・クーペの活躍であり、クーペは今回の豪州遠征のメンバーにも入っている。

■ドリームチームとの初対決

 両国の対戦成績は1勝1敗で得失点差も0であるが、今までの戦いは2試合とも中立地での試合であり、いずれかの国での試合はこれが初めて、というのも珍しいケースであろう。ベストメンバーが揃ったということも含め、両チームの実質的な初対戦であると言ってもよいであろう。
 フランス代表はインターコンチネンタルカップに出場するバイエルン・ミュンヘンのビシャンテ・リザラズとビリー・サニョル、けがで離脱したティエリー・アンリとエマニュエル・プチ以外はメンバーが揃った。中央の攻撃的MFであるジネディーヌ・ジダンの控えにはユーリ・ジョルカエフではなくエリック・カリエールが選ばれた。
 激しい雨の中、始まった試合でフランスはボールを圧倒的に支配する。しかしながら、得点には結びつかず、最初にゴールネットを揺らしたのは前半終了間際の44分、豪州のクレイグ・ムーアが両チームで唯一過去の2試合に出場しているトニー・ビドマーのパスを決めて先制する。前回の対戦同様先制点を許したフランスは後半に入りすぐに追いつく。49分にこの試合右サイドの攻撃的MFとして入っているロベール・ピレスが左サイドに走り込み、左サイドの攻撃的MFのクリストフ・デュガリーとの間でワンツーパスを決め、ダビッド・トレゼゲにラストパスを送り、右足のインサイドで難なく同点ゴールを決める。

■デュガリーの負傷退場

 結局得点シーンはこれだけで、初めてのベストメンバー同士での当該国での対戦は1-1のドローで終わるが、問題のシーンはフランスが勝ち越し点を狙う58分に起こった。半年ぶりに代表に復帰したデュガリーをマークする豪州の右サイドバックのケビン・マスカットが危険なタックルを犯し、デュガリーは膝を痛め、ピッチを去る。この危険なプレーに両チームの選手が集まるが、豪州人の主審のミカレフ氏はイングランド1部リーグのウォルバーハンプトンで「壊し屋」の異名を持つ同国人の右サイドバックにはイエローカードを提示しただけだった。デュガリーは検査を受けた結果、最低でも完治までに2月かかることが判明し、デュガリーの所属するボルドーの首脳陣はこの無茶な遠征にクレームを付けたのである。
 様々な批判を受けて行われた豪州-フランス戦であったが、豪州は過去2回最後の切符をかけて戦って敗れているプレーオフで南米5位のウルグアイと3度目の正直をかけて戦う。そしてフランス代表はデュガリーも帰国し、来年2月から本拠地スタッド・ド・フランスでルーマニア、スコットランド、ロシア、ベルギーと欧州のチームを次々に迎えて「普通の親善試合」を重ね、ワールドカップ開幕直前のソウルで韓国と最終テストの試合を迎えるのである。(この項、終わり)

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