第26回 2002年アフリカ選手権(1) フランスで関心の高いアフリカ選手権

■アフリカ選手権開幕

1月19日から2月10日までマリでアフリカ選手権が開催される。アフリカ選手権は2年に1回偶数年に開催される。偶数年、つまりワールドカップイヤー、オリンピックイヤーの初めに開催されることから、これらの大会の前哨戦、という重要な大会である。また、予選を経て16か国が本大会に出場するため、5か国しか本大会に出場しないワールドカップよりも多くの国で関心を集める。アフリカではワールドカップをしのぐ注目を集め、フランスでも関心の高い大会であり、スポンサーの多くはフランス企業である。
 前回の連載でフランスにおけるサッカー放映について紹介したが、ユーロスポーツでグループリーグの段階から連日放映され、決勝トーナメントはフランス国営放送で放映される予定である。NHKも放映権を獲得していることから、日本のサッカーファンの皆さんも楽しみにしていることであろう。

■アフリカ系移民が支えるフランス大都市

 さて、このアフリカ選手権がフランスにおいて大きな関心を集めている理由を紹介したい。まず、フランスとアフリカが政治的・経済的に密接な関係にあることから多くのアフリカからの移民がフランスに住んでいるからである。特にフランスは国籍が出生地主義であることから二世にとっては国籍を取得しやすい。また、19世紀後半以降出生率が低下し、第一次世界大戦後の人口減少が著しかったことから移民政策が緩やかだった時期もある。したがって旧植民地以外からも多くの移民を受け入れている。フランスにおいてアフリカ系の移民の数は公式な数字だけで100万人以上存在する。これ以外に二世、三世や未届けの滞在者をカウントすればその数字は何倍にも膨れ上がるであろう。
 彼らがフランスに来るのは単純に経済的な理由である。アフリカにいれば職もなく、食もない。フランスは伝統的に国外からの労働力でインフラを建設してきた。19世紀にパリに地下鉄網を張り巡らせたのはベルギーからの移民であり、20世紀の鉱業の繁栄はイタリア・ポーランドからの移民の力である。アフリカで彼らは常に飢餓との戦いを強いられている。しかしフランス、特に大都市に来れば職にありつく可能性は高くなる。アラブアフリカからの移民はパリ近郊の製造業に従事することが多く、ブラックアフリカからの移民はそのほとんどが大都市におけるサービス業である。アフリカ系移民は大都市への人口集中率が高いのである。

■テレビ局にとって最大のマーケットであるパリのアフリカ人

 彼らのフランスでの生活は決して楽なものではない。しかしながら、フランスに来れば職にありつける確率は高くなり、テレビを見ることもできる。彼らにとって母国の試合を見ることは何よりの楽しみであろう。そして彼らの生活水準は本国にいるよりもはるかに高い。したがってアフリカ選手権という番組の最大のターゲットはパリ近郊に住むアフリカ出身者であり、フランス企業がスポンサーになるのである。

■フランスのクラブから63人がエントリー

 この大会はフランスに生活するアフリカ系移民だけが関心を持つだけではない。アフリカ系移民以外のフランス人もこの大会に大きな関心を寄せている。それはこの大会にフランスのクラブから63人の選手がエントリーされているからである。3週間にわたる大会期間中にフランス1部リーグが4節、フランスカップのベスト16決定戦とベスト8決定戦が予定され、気象条件で延期になったリーグの試合も組み込まれた。クラブによっては最大8試合主力選手を失うことになる。本連載の第13回で紹介したように代表チームに選手を招集する際の他国のクラブチームとの間の関係は難しくなっている。ナイジェリアに関してはパリサンジェルマンに所属するナイジェリア人選手のうち、ジェイ・ジェイ・オコチャは代表入りしたものの、バルソロミュ・オグベチェはプロデビューをしたばかりなのでクラブに専念したい、という理由で代表入りを辞退している。
 ファンにとってもフランスのクラブから60人以上の選手が1月近く不在となることは大きな痛手である。しかし、逆のこともいえる。フランスのクラブ所属の選手がこれほど大量に活躍する国際大会は他にはない。2000年の欧州選手権でフランスのクラブ所属の選手は13人であった。おそらく今回のワールドカップでもフランスのクラブの選手でエントリーされるのは40人前後あろう。そういう点ではフランス人にとって非常に身近な大会なのである。普段スタジアムで見ている選手が母国のユニフォームを着て活躍する姿をテレビで見る、これもまたサッカーの楽しみであろう。(続く)

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