第25回 2001年テレビ視聴者数ベスト100

■フランス人とテレビの関係

 かつてフランス人はテレビを見ない、という神話があった。テレビが家にないこと、あるいはテレビを見ないこと、これがステータスシンボルであった。フランス流の教育を受けたジネディーヌ・ジダンは学校が休みの前の日だけテレビを見ることが許され、それがサッカー中継だった、というのは筆者が以前「フランス・サッカー実存主義」の第36回で紹介したので参照されたい。
 海峡の向こうの英国ではまだテレビを見ないことがステータスシンボルであるが、現在のフランスではあらゆる家庭にテレビが普及している。サッカーの試合も数少ないながら放映され、人気番組の一つである。テレビの普及なしにサッカーをはじめとするスポーツの発展は考えられないであろう。

■年間視聴者数ナンバーワンは「奇人たちの晩餐会」

 さて、新年早々、メディアメトリー社から2001年のテレビ視聴者数ベスト100が発表された。(フランスでは視聴率ではなく視聴者数で表される)それによるとナンバーワンは昨年5月29日に放映されたフランス映画「奇人たちの晩餐会」。およそ1160万人が視聴したこの映画が制作されたのは1998年。映画の公開初日3日前から劇場には数百人の徹夜組が列をなし、最寄りの地下鉄駅は人があふれ、付近の道路で渋滞を起こすという社会現象を巻き起こした。フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞では脚本賞・主演男優賞・助演男優賞の3部門で受賞し、欧州全体でも1000万人の観客動員を達成した。そしてその内容はフランス映画らしからぬコメディー映画。毎週水曜日に開く晩餐会でメンバーは誰か一人奇人を連れてきて、その奇人ぶりを競うというもの。フランシス・ヴェベールが監督・脚本を担当したわずか80分のこの作品のリメイク権をスチーブン・スピルバーグが獲得した。「奇人たちの晩餐会」は日本ではミニシアターでの単館上映にとどまり、テレビでも放映されたが深夜帯であり、幅広いファン層からは支持されなかったようである。
 一方、日本で昨夏テレビ放映され、映画としては最高の視聴率を記録した「タイタニック」はフランスでも昨年テレビ放映された。しかしながら、テレビの視聴数調査では87位にとどまり、映画部門でも「メン・イン・ブラック」などの後塵を拝し、27位であった。
 トップこそ映画に譲ったものの、上位を独占したのはジュリー・レスコー、ナバロなどのドラマである。夜9時という時間帯の主力はドラマか映画であり、根強いファン層を抱えている。

■最も視聴者数の多かったサッカーの試合はポルトガル戦

 ところで肝心のサッカーはどうだろうか。サッカーの試合で昨年最も視聴者数が多かったのは4月25日のフランス-ポルトガル戦の1060万人でようやく10位。それに続くのは10月6日のフランス-アルジェリア戦(1040万人:13位)と2月27日のフランス-ドイツ戦(1020万人:17位)である。それ以外にベスト100入りしているのは3月28日のアウエーでのスペイン-フランス戦(810万人:96位)だけである。例年上位入りするフランスカップ決勝、FAカップ決勝あるいはチャンピオンズリーグやUEFAカップのビッグゲームというようなクラブチームの試合が一つもベスト100入りしなかった、ということは特筆すべき事項であろう。代表の試合についても4月までに行われた試合は日本戦を除いてベスト100入りしたが、コンフェデレーションズカップ以降の9試合でベスト100入りしたのはアルジェリア戦だけである。また、ポルトガル、アルジェリア、ドイツ、スペインという地理的、社会的にも近い国との対戦だけがテレビ視聴者の関心を集めたようである。

■視聴者数だけでは判断できないスポーツの盛衰

 サッカーの試合が視聴数ベスト100のうち4つしか入らなかったことについて日本の方は不思議に思われるであろう。フランスにおけるサッカーファンのテレビ離れは今回のワールドカップでも明白である。従来、複数の試合が同時進行するグループリーグの最終戦以外は地上波の複数局が協調し、完全生中継をしていたが、今回のワールドカップでは地上波で見ることができるのは一部の試合だけである。
 もちろん、視聴数だけでそのスポーツの盛衰を判断することは危険である。昨年、フランス人が最も感動したスポーツシーンは12月2日のデビスカップの決勝戦である。メルボルンで行われたこの試合、フランスは豪州に3-2で勝利し、5年ぶり9回目の世界王座についた。しかし、この試合は先述の視聴数ベスト100には入っていない。また、フランス人がブラウン管の前から離れていようとも、この10年間、スタジアムに足を運ぶファンの数は増えてきた。今年もすばらしい試合が展開されることを期待したい。(この項、終わり)

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