第64回 ベルギーとの壮行試合(2) 出発直前にショッキングな敗戦

■国民の期待高まる超満員のスタジアム

 いよいよ日本へ出発する前日、宿敵ベルギーとの試合が行われた。スタッド・ド・フランスには79,959人というフランス代表のホームゲームでの最多の観衆が集まり、期待の高さがうかがわれる。期待しているのは集まった観衆だけではない。本連載第62回で紹介したジャック・シラク大統領は試合前に電話をかけ、ロジェ・ルメール監督とマルセル・デサイー主将を激励する。試合前には各種のイベントが行われ、2002人の子供たちが参加してスタジアムを盛り上げた。キックオフの前には炎をイメージした赤い服を着た子供たちがハート型に集まり、その間からブルーのユニフォームのフランス代表イレブンが姿を現すという趣向であった。ベルギーは日本と同じグループであることから、フィリップ・トルシエ監督をはじめとする日本の関係者の姿も超満員のスタジアムに見受けられる。
 炎のハートの中から出現したフランスイレブンであるが、ジネディーヌ・ジダン、ティエリー・アンリ、ファビアン・バルテスの3人の姿がない。ジダンは第3子の出産予定日と重なるためユーリ・ジョルカエフが代役を務め、右ひざを痛めており大事をとったアンリの代わりに左サイドにはクリストフ・デュガリーが入る。またGKについてはバルテスの体調が完全でないことに加え、バルテスの負傷時を想定し、第2GKのウルリッヒ・ラメが起用された。そして先発が期待された背番号9、ジブリル・シセはベンチからキックオフを見守り、ダビッド・トレゼゲが最前線を務める。
 キックオフの前の「ラ・マルセイエーズ」にブーイングもなく、モンペリエの音楽グループであるアテナイがキックオフセレモニーをつとめる。キックオフ前には8日にパキスタンで起こったバス爆破事件の犠牲者(14人の死者のうち11人がフランス人技術者であった)を悼み黙祷が行われた。政治的に不安定である韓国・日本への遠征を控える両国イレブンにとって看過できない痛ましい事件であろう。

■大型選手に先制点を許し、オウンゴールで追いつき、ハーフタイム

 20時45分にキックオフされた試合、青一色に染まったスタジアムの大声援を受けて試合を支配したのはフランスである。左からデュガリー、右からシルバン・ビルトールがセンタリングをあげるが得点に結びつかない。先制点はベルギーがあげた。20分、ヨハン・ワレムの右サイドのフリーキックに大型DFのグレン・デボークが頭であわせ、ラメのミスを誘い、先制点。その後もベルギーがフランスのゴールを襲うピンチとなる。その後は再びフランスペースとなり、ベルギーは守りを固めてカウンターを狙う。そして40分、右CKをフランスが得る。エマニュエル・プチのCKをジョルカエフが蹴ったボールをベルギーのティミー・シモンズが自ゴールに蹴りこみ、同点に追いつく。

■ジブリル・シセ、ついに代表デビュー

 後半に入るところでフランスは4人、ベルギーは2人の選手を交代させる。背番号9、今季のフランスリーグ得点王のシセがいよいよスタッド・ド・フランスのピッチに姿を現す。また、メンバー発表前までジダンの代役と見られていたジョアン・ミクーがジョルカエフに代わってゲームメーカーを務める。代表デビューをフランスサッカー歴に残る大観衆の前で果たしたシセであるが、センタリング、ヘディングシュートと積極的にボールに関与するが、ゴールネットを揺らすことにはならない。

■守りに入るが、試合終了間際に痛恨の失点

 チャンスはつかむものの得点をあげることのできないフランスの戦いぶりはベンチの方針を変えさせた。80分、右サイドの攻撃的MFのビルトールに代わってピッチに入ったのはアラン・ボゴシアン、ボゴシアンは攻撃的MFのミクーやデュガリーと並ぶのではなく、パトリック・ビエイラやプチと同じ高さに並ぶ。つまりフランスは守備的MFを2人から3人に増やし、3人目の守備的MFとしてボゴシアンを起用し、残り10分は守りに入ったのである。それまで定着していた4-2-3-1というシステムを放棄し、4-3-2-1というシステムでタイムアップの笛を待ったのである。「ロスタイムは3分」と表示された直後、右サイドからゲールト・ベルヘイレンがセンタリングし、マルク・ビルモッツが決勝ゴールを上げる。
 フランスにとってこの敗戦は重い。まず、日本への出発を翌日に控え、国民の期待も高まったところでの敗戦であったこと、次に1993年11月17日にブルガリアに敗れた試合とスコアならびに決勝点の取られ方が同じであったということ、そして定着している4-2-3-1システムを崩して「守りに入った」にもかかわらず失点したことである。結局ワールドカップ本大会出場国にはホームですら勝つことができなかった。5月31日のセネガル戦に向けてどのような修正がなされるのであろうか。(この項、終わり)

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