第301回 初出場・初得点物語(4) 冬の時代を支えたエリック・カントナ

■1986年ワールドカップ以降の低迷期に華々しくデビュー

 前回は現代のフランス・サッカーの至宝ジネディーヌ・ジダンを紹介したが、今回はジダンとちょうど入れ替わるようにフランス代表から離れていったエリック・カントナを紹介しよう。
 エリック・カントナは1966年5月24日、ちょうどサッカーの母国イングランドでワールドカップが開催される直前にフランスのサッカーの都マルセイユで生まれている。15歳でサッカーの都を離れ、名将ギ・ルーの率いるオセールで青春期を過ごし、その才能を開花させる。カントナがフランス代表にデビューしたのは1987年8月12日にベルリンのオリンピック・スタジアムで行われた西ドイツとの親善試合である。フランス代表は前年のワールドカップでは28年ぶりに3位に入るという好成績を残したが、フランス代表はここから長いトンネルに入る。8月に行われたスイスとの親善試合に敗れ、秋から始まった1988年欧州選手権・西ドイツ大会の予選でも苦戦が続く。アイスランドにアウエーで引き分け、ソ連にホームで負け、東ドイツにもホームで引き分け、1987年になってようやくアイスランドにホームで勝ったものの、アウエーでノルウェーに敗れてしまい、1勝2分2敗という成績で1986-87シーズンを終える。新シーズン最初の試合となる真夏の親善試合でカントナがデビューする。アンリ・ミッシェル監督は進境著しい21歳のカントナと前年のワールドカップで彗星のようなデビューを果たしたジャン・ピエール・パパンが2トップを組むという新フォーメーションで強敵に挑む。しかし、試合はワールドカップのファイナリストが主導権を握り、開始早々4分、9分とルドルフ・フェラーが連続ゴールを上げてしまう。一矢を報いたのがカントナであり、42分に右ウイングのジョゼ・ツーレからのセンタリングをゴールに入れ、予選の残り3試合での大逆転への希望の星となった。

■2大会連続して本大会出場を逃す

 代表デビュー戦でゴールという華々しい結果を残したかに見えるカントナであったが、デビュー戦の相手が前年のワールドカップで準優勝した西ドイツ、しかもデビュー戦の場所はベルリンの壁が聳え立つ東西冷戦下の西ベルリンというタフな相手とタフな環境はその後のカントナの運命を暗示していた。新シーズンになっても残り3試合でフランスは1勝もすることなく予選を終え、前回優勝した欧州選手権の出場権を逃してしまう。1988年から始まったワールドカップ・イタリア大会予選では当初カントナは代表からはずれ、カントナのいないフランスは苦戦続きとなる。カントナが久しぶりに代表復帰したのは1989年8月にマルモで行われたスウェーデンとの親善試合。この試合はパパン・カントナの2トップが2点ずつゴールをあげるという大活躍で4-2と快勝する。イタリア行きが絶望となった段階でカントナは代表復帰し、大活躍するが時すでに遅し。フランスは1988年の欧州選手権に続いて予選落ちする。

■フランス・サッカー史上最強の2トップ、パパン・カントナ

 しかし、ここからパパン・カントナの2トップが威力を発揮する。圧巻はワールドカップを控えた1990年2月28日にモンペリエで行われた西ドイツとの親善試合である。当時カントナはモンペリエに所属し、5月後に世界の頂点に立つ西ドイツ相手にパパン、カントナがアベックゴールをあげて、2-1と快勝し、地元ファンだけではなくフランス中を歓喜させた。ワールドカップ予選におけるカントナの起用が悔やまれる。そして1992年欧州選手権大会の予選ではこの2トップが最高の成績を残しながら、スウェーデンの本大会では惨敗してしまう。1994年ワールドカップ米国大会予選でも活躍し、最終戦のホームでのブルガリア戦、カントナは32分には米国行きに王手をかけるゴールを奪い、69分にベンチに下がったパパンからキャプテンマークを渡される。カントナは初めてフランス代表のキャプテンを務める。しかし、その20分後の悲劇はここで改めて説明するまでもないだろう。

■新司令塔ジダンの出現とともに代表落ち

 エメ・ジャッケ体制となってからも主将を任され、チームの中心となったが、前回紹介したとおり1996年欧州選手権イングランド大会の前半戦は苦戦が続く。結局カントナは前半戦を終了した時点で代表から落とされる。フランス・サッカー史上最高の2トップといわれるパパン、カントナ。カントナはクラブチームでは数々の栄光を手にし、代表チームでも活躍したが、新司令塔ジネディーヌ・ジダンの出現とともに代表から去った。カントナの代表ラストゲームは1995年1月のオランダ戦。奇しくもパパンもこの試合が最後のブルーのユニフォームだった。フランス代表の冬の時代をパパンとともに支えたカントナの姿はファンの脳裏にしっかりと焼きついているのである。(続く)

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