第528回 最後のテストで手痛い敗戦(1) 23人の選手決定まで唯一の試合となるスロバキア戦

■半年間にわずか1試合のフランス代表

 欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦の第1戦と第2戦の間は2週間。この間にフランス代表にとって今年最初の試合が行われ、スロバキアを本拠地スタッド・ド・フランスに迎える。ワールドカップ開幕まで約100日残っているが、実は代表チームにとって使うことのできる時間はそれほど多くない。
 フランス代表のワールドカップまでの日程を見ると3月1日のスロバキア戦の次の試合は5月27日のメキシコ戦である。フランス代表が最後に試合を行ったのは昨年11月12日のことであるから、昨年11月から今年5月までの半年の間に1試合しか試合を行わないことになる。また、本大会にエントリーする23人のリストの提出期限は5月15日であり、23人のメンバーを決める前の最後の試合がこのスロバキア戦である。したがって、この試合に新顔が姿を現すかどうかが、大きな注目を集めることになった。

■プロ通算14試合、今季7試合しか出場経験のないフランソワ・クレルク

 スロバキア戦のメンバー20人は2月23日に発表されたが、大きな驚きを与えるものであった。初選出となったのは22歳のフランソワ・クレルクである。本連載でもしばしばリヨンをとりあげてきたが、読者の皆様にとっては見慣れない名前であろう。リヨン近郊のブール・アン・ブレス出身で昨季トゥールーズとプロ契約を結び、今季リヨンに移籍してきた。プロ1年目のトゥールーズでも7試合しか出場しておらず、選手層の厚いリヨンでもわずかに7試合しか出場していない。右サイドバックの選手であり、守備陣に負傷者が続出した中でようやく出場のチャンスを得ており、PSVアイントホーヘン戦に出場したところである。1部リーグで2シーズン目、リーグ戦では通算14試合出場という選手がフランス代表に選出されることは極めて異例である。本連載第302回で紹介したミッシェル・プラティニを想起される本連載の読者の方も少なくはないであろう。近年では2004年8月18日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦でデビューしたリオ・アントニオ・マブーバが相当するが、マブーバも1部リーグのボルドーで21試合の出場経験がある。右サイドバックのクレルクの選出は同ポジションのジョナタン・ゼビナやフランク・ジュリエッティが負傷中であることも影響しているが、未知数の新人を唯一の機会に起用せざるを得ないところに現在のフランス代表の苦悩がうかがわれる。
 メンバー発表後に、ウィリアム・ギャラスが負傷し、その代役にはDFではなく中盤の選手であるナントのジェレミー・トゥーラランを初選出した。22歳のトゥーラランはナント生まれのナント育ちであり、23歳以下のフランス代表の合宿からクレールフォンテーヌに呼び寄せられた。負傷した選手の代役を同じポジションの選手でうめることができないこともドメネク監督の頭痛の種であろう。

■レイモン・ドメネク監督になって初めて復帰したフィリップ・メクセス

 かたや、復帰組ではレイモン・ドメネク体制になってからの初選出となったのがASローマのフィリップ・メクセスである。前任のジャック・サンティーニ時代には6試合に出場しているが、2004年2月のベルギーとの親善試合以来代表から遠ざかっている。ルイ・サアも2004年11月のポーランド戦以来の復帰となった。

■選出されなかったモナコ勢とジネディーヌ・ジダンのバックアップ組のベテラン勢

 一方、選に漏れたのは守備陣ではセバスチャン・スキラッチとガエル・ジベのモナコ勢、所属チームの成績が不振であり、落選はやむをえない。攻撃陣ではジェローム・ロタン、シドニー・ゴブーが外れている。攻撃陣はティエリー・アンリ、ダビッド・トレゼゲ、シルバン・ビルトールを軸にサア、さらには昨年秋に復活したニコラ・アネルカが控える。
 今回のワールドカップの出場権獲得にはジネディーヌ・ジダン、パトリック・ビエイラ、クロード・マケレレという3人のベテランの復帰なしには考えられなかった。その3人は今回のスロバキア戦のメンバーにも継続して入っている。沈滞ムードの続くフランス代表にとって1998年、2000年の栄冠を獲得した他のメンバーの復帰もまた注目を集めているところである。特にエースであるジダンのバックアップメンバーとして復帰の可能性のあったロベール・ピレスとジョアン・ミクーはいずれも招集されなかった。
 20人のメンバーは大きな議論を巻き起こしたが、このスロバキア戦は23人のワールドカップ出場メンバー選考まで最初で最後となる機会なのである。(続く)

このページのTOPへ