第872回 レイモン・ドメネク監督留任(2) 支持派の集まる理事会で留任が決定

■7月3日の理事会で本人を交えて議論

 前回の本連載ではレイモン・ドメネク監督の去就をめぐって解任派と留任派に二分されていることを紹介した。解任を要求しているのは一般のサッカーファン、代表チームに選手を送るクラブの幹部、1998年のワールドカップで優勝したメンバーを中心とする代表のOBたちである。一方、ドメネク監督の留任を支持しているのは協会の幹部、そして現役の選手たちである。
 いずれにせよドメネク監督の欧州選手権での戦いぶりの総括と今後について7月3日にフランス協会の理事会で検討することになった。グループリーグ敗退直後に辞意を漏らしたドメネク監督であるが、本来の契約期間は再来年の南アフリカでのワールドカップまで残っている。本人を交えて意向を確認するとともに、世論で話題になっている監督の交代に踏み切るかどうかを決定することが理事会の目的である。

■圧倒的賛成多数でドメネク監督の留任が決定

 理事会のメンバーはフランスサッカー協会のジャン・ピエール・エスカレット会長をはじめとするメンバーであり、この中にはプロの関係者だけではなく、アマチュアの団体の代表や、審判員の代表もいる。UEFA会長でもあるフランスサッカー協会の副会長のミッシェル・プラティニなど2人が欠席した以外はほとんどのメンバーが出席した。
 朝の9時からフランスサッカー協会で開催された理事会は昼前には終了した。ドメネク監督にはいくつか質問が行われ、エスカレット会長からは代表監督継続の意思を質問し、ドメネク監督は続行の意思を示した。最後に挙手による信任投票が行われ19人中18人がドメネク監督の留任を支持した。
 基本的に理事会のメンバーはドメネク留任派であるから、予想通りの結果となったが、午後の最初に行われた記者会見ではエスカレット会長が留任の理由を「まず、契約期間が残っているので、その道義的な責任を果たそうとした」と説明した。ドメネク監督のチームマネジメントに対してモニタリングをすることを表明するとともに、コミュニケーション、チームマネジメント、プレースタイルなどについて変化を求めている。これらはドメネク支持派である協会の首脳部も欧州選手権の成績を受けての世論に気を遣っての反応であろう。

■欧州選手権出場のほぼ半数の国で監督が交代

 一般のファンにとっては驚きとも言えるドメネク監督の留任であるが、この決定に驚いているのはフランス人だけではない。実は今回の欧州選手権に出場した16か国の監督のうち、半数近くの7チームの監督がこの機に交代している。共同開催国でグループリーグで敗退したスイスのヤコブ・クーン監督、オーストリアのヨゼフ・ヒッケルスベルガー監督は共に引退を表明している。同じくグループリーグで敗退したチェコのカレル・ブリュックナー監督も6年の代表監督生活に別れを告げている。
 また、監督が交代するのはグループリーグで敗れたチームばかりではない。グループリーグを勝ち抜いたポルトガルのルイス・フェリペ・スコラーリ監督は5年の代表監督の座を捨て、金銭的な理由でイングランドのチェルシーへと移っている。さらに、グループリーグでフランスに勝利したイタリアとオランダも監督が交代している。イタリアのロベルト・ドナドーニ監督は準々決勝で敗れた4日後に代表監督を退くことを発表、後任は2006年ワールドカップの優勝監督のマルチェロ・リッピである。オランダのマルコ・ファン・バステン監督も4年の代表監督から古巣のアヤックス・アムステルダムに戻ることを決定している。そして今大会の優勝監督となったスペインのルイス・アラゴネス監督もその座をレアル・マドリッドを率いたビチャンテ・デルボスケに譲り、自らはトルコのフェネルバフチェの指揮を取ることになる。

■最古参の監督との対戦でドメネク体制が再出発

 ドイツ、クロアチア、ギリシャ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スウェーデン、トルコの8か国は監督が留任したが、この中でフランス同様グループリーグで敗退したのはポーランド、ルーマニア、スウェーデン、ギリシャの4か国であり、大会前からそれほど期待を集めていたチームではない。
 このようにフランスサッカー界が下したドメネク監督留任のニュースは欧州全体をも驚かせた。ワールドカップ予選は9月6日のオーストリア戦から始まるが、それまでに唯一行う親善試合が8月20日のスウェーデン戦である。スウェーデンのラーシュ・ラガーベック監督は2000年から代表監督を務め、欧州選手権に出場した中で最古参である。ドメネク監督はベテラン監督との対戦で最初の解答が要求されているのである。(この項、終わり)

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