第1275回 2011年チャンピオンズトロフィー(1) 「黒い真珠」ラルビ・ベンバレクの母国モロッコ

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■リーグ2位のマルセイユが出場

 いよいよ8月にシーズンが開幕するが、シーズン前の恒例となったのがリーグ優勝チームとフランスカップ勝者の間で行われるチャンピオンズトロフィーである。フランス最大のスポーツイベントであるツール・ド・フランスの終了とリーグ開幕の間に行われるようになり、注目度が高まった。
 昨季はリーグとフランスカップの両方のタイトルでリールが優勝しているが、リーグ戦で2位のマルセイユが出場する。1995年にこのタイトルは始まっているが、2年目の1996年にはオセールが二冠を獲得したため開催されなかったが、2008年にリヨンが二冠を獲得した時は前年のチャンピオンズトロフィーの勝者であるボルドーが出場した。そして昨年から規程に「二冠の場合はリーグ2位チームが出場」と明記され、マルセイユがこの新ルールの適応第一号となった。この変化はこのチャンピオンズトロフィーに対する注目が集まっていることに他ならない。マルセイユはリーグ2位であるだけではなく、第3のタイトルであるリーグカップを獲得しており、このチャンピオンズトロフィーの出場チームとしてふさわしい成績を残している。

■チャンピオンズトロフィーの変遷

 1995年にチャンピオンズトロフィーが発足した当初は、サッカーの普及、そしてバカンスシーズンの開催ということでビッグクラブのない地方都市で開催されることが多く、観客も1万人前後であった。しかし、2005年から状況が変化し、いずれかのチームの本拠地で行うことになり、リヨン、ボルドーなどで3万人以上の観客を集める大会となった。さらに近年の傾向として国外でこのタイトルが争われるようになってきた。一昨年はカナダのモントリオールで初めての国外開催、3万4000人という史上最多の観客を動員し、そして昨年はチュニジアのラデスで開催し、5万7000人と観客動員記録はあっさりと更新された。

■欧州各国リーグの国際戦略

 そして今年はモロッコのタンジェで行われるが、国外でこのチャンピオンズトロフィーが行われる理由はフランスリーグの国際戦略である。欧州各国のサッカーリーグは、ボスマン判決以降は選手の国際化が進むとともに、ファンの国際化も進んでいる。フランスリーグは欧州ではイングランド、スペイン、イタリア、ドイツに次ぐ5番目のリーグであり、国際戦略はリーグの浮沈のカギを握る重要な戦略である。かつては欧州のサッカー界をリードしたイタリアのセリエAも最近はイングランドのプレミアリーグ、スペインのリーガ・エスパニョーラに主役の座を奪われており、その危機感から今年のイタリアスーパーカップは中国で行われる。

■欧州で活躍した最初のアフリカ出身選手、ラルビ・ベンバレク

 一方、フランスの場合、自国と関係の深い国での開催となっている。今年のモロッコもマグレブ三国であり、多くのモロッコ人選手がフランスリーグで活躍している。現在の両チームにはモロッコ国籍の選手はいないが、第二次世界大戦をはさんで活躍した「黒い真珠」ことラルビ・ベンバレクはモロッコのカサブランカ出身でマルセイユとプロ契約し、フランス代表にも選出される。しかし、ベンバレクがマルセイユに移籍した翌年にフランスは戦火に見舞われてしまい、ベンバレクはカサブランカに戻る。欧州に平和が戻るとベンバレクもフランスに再び渡り、名門スタッド・フランセに移籍、スペインのアトレチコ・マドリッドでも活躍する。そのベンバレクが自身のキャリアの最後として選んだチームはマルセイユであった。1953年から1955年までマルセイユでプレーしている。そしてこのマルセイユ時代にもフランス代表に選出され、37歳のベンバレクはスイスのワールドカップを制したばかりの西ドイツ代表とハノーバーで戦い、この試合がフランス代表として最後の試合となったが、初代表から代表引退まで17年というのはいまだ破られぬ不滅の記録である。
 現在ではアフリカ出身の選手はフランスだけではなく欧州中どこにでも見られるが、ベンバレクはアフリカ出身の選手として初めて欧州で活躍した選手である。現役引退後はモロッコに戻り、モロッコ代表の初代監督に就任している。
リーグ2位ながらチャンピオンズトロフィーの出場権を得たマルセイユにとってモロッコは特別な国なのである。(続く)

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