第3039回 パリサンジェルマン、2度目の日本ツアー(1) パリサンジェルマンの国際戦略

 平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■27年ぶりにフランスのクラブが訪日

 革命記念日の7月、上旬のラグビーのフランス代表に続いて、下旬にはパリサンジェルマンが訪日する。パリサンジェルマンは1995年6月に続く2回目の訪日であり、フランスのクラブチームとしてもそれ以来の訪日となる。前世紀は1982年にトゥールーズ、1985年にボルドー、1995年のパリサンジェルマンとフランスのクラブが訪日したが、今世紀になってからは縁がなく、久しぶりにフランスのクラブが日本を訪問することになった。

■欧州のビッグクラブによるインターナショナルチャンピオンズカップ

 訪問の背景にはパリサンジェルマンの国際戦略がある。欧州のビッグクラブは2010年代になってから北米市場に対して熱い視線を注ぐようになった。従来から欧州のビッグクラブは欧州スーパーリーグ構想などを打ち上げたが、それは欧州域内を対象とするものであった。2013年に誕生したのがインターナショナルチャンピオンズカップである。米国のニューヨークにあるプロモーターのRSGが企画し、欧州のビッグクラブを集めてプレシーズンマッチを北米などで行うものである。フランス勢が参戦したのは第3回大会の2015年、この時は北米に加えて、豪州、アジア、欧州でも開催され、パリサンジェルマンは米国で3試合、カナダで1試合行い、優勝している。パリサンジェルマンは翌年も米国で3試合行い、優勝した。
 2017年大会にはフランスからリヨンも参戦した。パリサンジェルマンは米国で3試合、この時の成績は振るわなかったが、リヨンは中国の南京の6万人収容の競技場で試合を行い多数の観衆を動員した。

■2018年にシンガポールにオフィスを開設したパリサンジェルマン

 2018年にもフランスからパリサンジェルマンとリヨンが参戦し、パリサンジェルマンは欧州で1試合、シンガポールで2試合、リヨンは欧州で3試合を行った。パリサンジェルマンは1勝2敗と負け越したが、シンガポールでの2試合はいずれも5万人以上の観客を集めた。一方、欧州(オーストリア)での試合は2万人しか動員できなかった。リヨンも欧州各地の対戦相手の本拠地で試合を行ったが、観客動員は1万から2万人、イングランドのチェルシーとスタンフォードブリッジで対戦した試合ですら1万8000人しか集まらなかった。
 パリサンジェルマンはこのシンガポールでの試合に向けて2018年春にシンガポールにアジア・パシフィック地域の拠点を置いた。このシンガポールオフィスのマネージングディレクターに就いたのがセバスチャン・バゼル氏である。バゼル氏は同オフィスのカミーユ・プチ氏とともにアジア市場を開拓し、まずは中国を重点市場として取り組んだ。

■中国市場で成功、高まる2度目の日本ツアーへの機運

 2019年にはインターナショナルチャンピオンズカップには参戦しなかった。それはパリサンジェルマンが独自に中国ツアーを行ったからである。この年のチャンピオンズトロフィーが中国の深圳で行われ、リーグチャンピオンのパリサンジェルマンはフランスカップ優勝のレンヌと対戦する。パリサンジェルマンは深圳での試合の1週間前に中国入りし、マカオでインテルミラノ(イタリア)、蘇州でシドニーFC(豪州)と試合を行い、チャンピオンズトロフィーのレンヌ戦にも勝利したのである。
 中国市場開拓の追い風となったのが、テレビの放映権の変更であった。1部リーグであるリーグ・アンの放映権がカナルプリュスとビーインからスペインのメディアプロへと移行した。従来はキックオフ時間が集中しており、フランスのゴールデンタイムに行われる試合がほとんどであったが、メディアプロの参入以降はキックオフの時間に自由度が生まれた。その結果、中国のゴールデンタイムを意識した時間にもキックオフされるようになり、多くの中国企業のスポンサーを集め、ユニフォームの選手名や広告も中国語で標記されて試合が行われた。そしてこの活動は直接的な入場料収入や放映権収入だけではなく、むしろレプリカユニフォームの販売へとつながっていった。
 そして大きな転換点となったのが2018年9月11日に東京の南麻布にあるフランス大使館でのプライベートセミナーである。東京の有力財界フランス人を相手に行われ、バゼル氏がシンガポールから東京に赴き、パリサンジェルマンのアジア戦略についてレクチャーしたのである。これを機にパリサンジェルマンの2回目の日本ツアーへの機運が高まったのである。(続く)

このページのTOPへ