第206回 ローランギャロス2003(4) 赤土の上で躍動するスペイン・アルゼンチン勢

■クレーコートに必要なテクニックを備えたラテン勢

 前回、前々回の連載で男女共に思うような成果を残すことができなかったフランス勢を紹介したが、今大会で注目を集めたのはスペイン、アルゼンチンなどのラテン勢力である。テニスのトーナメントの場合、開催地や開催時期という地理的要因よりはむしろサーフェースというコートの物理的要因が勝敗を左右する。四大大会について言えば、ウィンブルドンの芝、ローランギャロスのクレー、この2つが最も特徴的なサーフェースで、多くの優勝候補が泣いてきた。クレーコートのローランギャロスの場合、球足が遅く、パワーとスピード全盛の現在にあっても、ランキング上位選手のパワーとスピードの威力を帳消しにしてしまう。またローランギャロスでは抜群のフットワークを誇るだけでは意味がない。細かい粒子からなる赤土の上を滑りながら打つ、というテクニックを体得しなくては宝の持ち腐れである。

■クレーコートが得意ではないフランス人選手

 ローランギャロスの場合は陽気な地元の観客の声援はフランス勢にとって非常に有利に作用するが、実はクレーコートというサーフェースにはそれほどフランス人選手が慣れ親しんでいるわけではないことが、地元選手の上位進出につながらない。一方、スペインや南米の選手は初めてラケットを握った日からクレーコートに親しみ、ローランギャロスを自分の庭のように赤土の上を走り回るのである。クレーのスペシャリストと言われるラテン勢で双璧をなすのがスペインとアルゼンチンである。
 男子シングルスの本戦には128人がエントリーしたが、そのうちスペインから16人、アルゼンチンからは12人が出場しており、今大会のラテン旋風の中心になった。上位10人のシード選手のうちスペイン勢が3人、アルゼンチン勢が2人を占め、地元フランス勢は18人が出場しているが、最高シード選手は第14シードのセバスチャン・グロジャンである。

■順調に勝ち上がったスペイン・アルゼンチンの上位シード選手

 スペイン勢、アルゼンチン勢について特筆すべきは、ローランギャロスの魔物を魔物と思っていないところである。例年、ローランギャロスでは上位シード選手が早々と倒れ、「赤土の下には魔物が棲んでいる」と言われている。例えば、今大会の第1シードは豪州のレイトン・ヒューイットであるが、3回戦で姿を消している。一方、スペイン、アルゼンチンの上位シード選手はごく一部の例外を除くと順調に勝ち上がっている。第10シードまでに入った両国勢は第3シードのフアンカルロス・フェレーロ(スペイン)、第4シードのカルロス・モヤ(スペイン)、第7シードのギレルモ・コリア(アルゼンチン)、第8シードのダビッド・ナルバンディアン(アルゼンチン)、第9シードのアルベルト・コスタ(スペイン)の5人であるが、この5人のうち、2回戦で予選勝ち上がり組のフランスのニコラ・クートロに敗れたナルバンディアン以外は順調に勝ち進み、ベスト8に勝ち進んだ。
 それ以外のベスト8進出者の顔ぶれは第2シードのアンドレ・アガシ(米国)、第19シードのフェルナンド・ゴンザレス(チリ)、第28シードのトミー・ロブレド(スペイン)、初出場でノーシードのマルティン・フェルカーク(オランダ)であり、ベスト8半数の4人がスペイン人選手となり、これは大会史上初めてのことである。また、チリからもベスト8に残り、ラテン系以外の選手がベスト8の4分の3を占めた。

■フランス勢の消え去ったローランギャロスの主役はラテン勢

 この結果、ラテン系以外のトップ10以内の5選手でベスト8に残ったのは米国のアガシだけであり、逆にラテン系のトップ10以内の5選手でベスト8に残ることができなかったのはナルバンディアンだけである。地元フランス勢の消え去ったローランギャロスでは、クレーのスペシャリストといわれるラテン系の選手が、持ち前の明るさを振りまいてパリジャンの声援に応えているのである。(続く)

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