第233回 2003年世界陸上パリ大会 (2) 輝く金メダリスト、ペレク、ディアガナ、バルベル

■2年おきの開催に変更、上位進出国の多様化

 世界陸上は1991年の東京大会を契機にして大きく発展することになった。当初はオリンピックの前年に4年おきで開催していたが、この大会の成功と発展を確信させたのが第3回の東京大会である。初めて欧州以外で行われた大会は、地元日本にとって大会史上初の金メダルを花形競技の男子マラソンで獲得したことも重なり、それまでとは桁違いの盛り上がりと経済効果をもたらした。この結果、1993年以降は奇数年、すなわちオリンピックもワールドカップも開催されない年に開催されることになり、これらのイベントと同じ注目を集めることになった。
 前回の本連載で紹介した1991年の東京大会でのフランス男子4×100メートルリレーチームの不作法は最終日の最後の種目であったこともあり、フランス陸上競技がその醜態を世界にさらすことになった。この影響か、フランスは東京の次にシュツットガルトで開催された1993年大会ではメダルを1つも獲得することができなかった。そしてこの大会は陸上界の勢力地図の変化と、大会のレベルアップが見られた大会であった。1980年代に始まったこの世界陸上も当初は冷戦下の構図を象徴し、メダル争いは米国、ソ連、東ドイツが競り合っていた。ところが1990年前後の東欧の自由化、ソ連の解体とともに、中国やアフリカ諸国の台頭が目立ち、メダル獲得国の数も多くなった。ちなみに世界陸上は種目数はほとんど増加せず、第1回大会は123のメダルを25か国で分け合い、東ドイツ、米国、ソ連の3か国で半分以上を獲得していたが、第4回大会では133のメダルを36か国で分け合い、米国、ロシア、ドイツの獲得したメダルはその3分の1程度である。

■マリー・ジョー・ペレク、鮮やかな復活の金メダル

 このような勢力の変化に立ち遅れたフランスであったが、スウェーデンのエーテボリで行われた1995年大会では1991年大会でフランス勢初の金メダルを獲得し、1992年のバルセロナオリンピックも制したマリー・ジョー・ペレクが女子400メートルで金メダルを獲得する。ペレクは一時期200メートルに転向していたが好成績が残せず、400メートルに復帰し、見事に優勝、このエーテボリでの金メダルがペレクを大きく飛躍させる。翌年のアトランタでは400メートルだけではなく200メートルでも優勝することになる。
 女子のペレクが金メダルを獲得したエーテボリでは2人の男子の銅メダリストが誕生した。男子400メートルハードルの当時の欧州記録保持者であったステファン・ディアガナが48秒14で3位にはいる。また、セルゲイ・ブブカが5連覇を果たした棒高跳びではジャン・カルフィオニがブブカ、バルセロナの覇者であるマキシム・タラソフに次ぐ成績を残す。金メダルと銀メダルの2人の力量が飛びぬけていたために銅メダルにとどまったが、もしカルフィオニが別の時代に生まれていれば金メダルは不可能ではなかったであろう。

■男子初の金メダリスト、ステファン・ディアガナ

 1997年のアテネ大会ではついに男子の金メダリストが誕生する。エーテボリで銅メダルを獲得したディアガナは翌年のアトランタオリンピックを負傷のため欠場、捲土重来を期す28歳の執念がアテネで実り、47秒70というタイムで優勝する。そして女子の4×100メートルリレーでもデルフィン・コンブ、パトリシア・ギラール、シルビアン・フェリックス、クリスチーヌ・アロンが銅メダルを獲得する。

■セビリアのヒロイン誕生、ユニス・バルベル

 1999年のセビリア大会はフランス勢にとって最高の大会となった。前回大会で金メダルを獲得したディアガナは男子400メートルハードル決勝で終始トップを走りながら最後のハードルで失敗し、イタリアのファブリジオ・モリに敗れて2着となったが、3大会連続でもダルを獲得し、金銀銅と色の異なるメダルをフランスに持ち帰った。そして女子4×100メートルリレーは順位を一つ上げて2位となった。そしてこの大会でフランス陸上界に新たなヒロインが誕生した。英国領であったシエラレオネ出身のユニス・バルベルである。バルベルについては4年前に、サッカー・クリックの「フランス・サッカー実存主義」の第55回でも紹介しているが、大会直前にフランスに帰化し、シンデレラとなったのである。バルベルは女子七種競技で6861点という自己ベストを大舞台でマークし、この記録はフランス新記録であり、1999年の世界最高記録であった。
 2000年3月に2003年のパリ開催が決定し、気勢の上がるフランス勢であったが、初めて北米大陸で行われた2001年のエドモンドン大会では振るわなかった。金メダルと銀メダルの獲得はならなかったが、男子1500メートルでドリス・マーズジが詰ダル、そしてお家芸となった女子の4×100メートルリレーではベテランのオディール・シディブが他の若手選手をまとめ、3大会連続のメダル獲得となる3位に入る。
 さて、地元開催の今大会のフランス勢の活躍が楽しみである。(続く)

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