第460回 マルセイユを沸かせた日本人・仲里繁

■マルセイユで評価を下げた日本サッカー

 前回までの連載ではフランスで相次ぐ監督の更迭を紹介したが、その中にはマルセイユのジョゼ・アニーゴも含まれていた。人気チームならではの更迭劇であったが、その後任は日本代表監督も務めたフィリップ・トルシエ、そしてトルシエの秘蔵っ子と言われた中田浩二も加わり、マルセイユのファンはMade in Japanの新監督と選手に期待を寄せた。しかしながら、結果的には2人はサッカーの都のファンの期待にこたえることができず、日本サッカーに対する評価を下げたにとどまった。

■世界タイトルマッチの開催地変更、初めて日本人がフランスへ

 しかし、このサッカーの都を沸かせた日本人がいたのもまた事実である。その名は仲里繁、WBA世界スーパーバンタム級7位のボクサーである。日本ボクシングの都とも言える沖縄出身で、1994年にプロデビューし、バンタム級で日本チャンピオンに2度挑戦して失敗してから階級を上げ、2002年に東洋太平洋チャンピオンとなり、2003年、2004年と2度WBCの世界チャンピオンに挑戦した。世界戦の相手はメキシコの英雄オスカー・ラリオス。ハードパンチャーの仲里はこのラリオスに強烈なパンチを与えたが、2回とも判定で惜しくも敗れている。
 その仲里の3回目の世界挑戦はWBA世界スーパーバンタム級、相手はフランスのマヤル・モンシプールである。モンシプールはイラン出身、日本にとってワールドカップ出場のライバルであるイラン出身のボクサーとの世界タイトルマッチということで、両国では並々ならぬ注目を集め、当初はこの世界戦は中国の上海で4月23日に開催される予定であったが、マルセイユに開催地が変更された。代替開催地としてマルセイユが選ばれたのは本連載第402回でも紹介したマルセイユの会長候補であったミッシェル・アカリアスの影響力を無視するわけにはいかない。中国の巨大マネーを狙う主催者、そして反日運動にゆれる中国、その微妙なバランスの中での開催地変更となったが、トルシエ、中田がファンの期待を裏切っているサッカーの都での開催となったのである。そして日本人として初めてフランスで世界タイトルマッチを闘うことになったのである。

■絶好調で4度目の防衛戦を迎えるチャンピオン

 さて、チャンピオンのモンシプールの戦績は26勝(17KO)2敗2分、2003年7月に世界タイトルを獲得して以来、3度の防衛に成功している。昨年11月にパリ・ベルシー総合体育館でタイのヨダムロンに対して6回KO勝ちして以来の試合である。ファンの期待も高く、当初上海で予定されていた試合の遠征ツアーには80人以上の予約がすでに入っていた。また、試合前日の記者会見では「早いラウンドでのKO勝ち」を宣言している。しかし、相手の仲里はこの階級では実力世界一と目されるラリオスに2度判定まで持ち込んでおり、決して油断はならない相手である。

■序盤から打ち合いの大スペクタクル

 7000人の大観衆が集まったマルセイユのパレ・デ・スポールで4月29日19時半に熱戦の火蓋は切られた。開催地が変更となったために日程が6日繰り下がった結果、4月29日という日本人にとっては特別な日に開催されることになり、仲里は鬼気迫る戦いを挑んだのである。すでに仲里はプロデビューして11年、年齢的にも32歳でこれが最後の世界挑戦であろう。2度の世界挑戦、そして直近の試合も12ラウンド戦い抜いた仲里はスロースターターという戦前の予想であったが、チャンピオンのモンシプールにペースを合わせるかのように序盤から激しく攻勢に出た。序盤からの両者の積極的な打ち合いはややチャンピオンが優勢であり、仲里の見せ場は2ラウンドと4ラウンドであった。しかし、仲里が考えていた5ラウンドまでの戦いを過ぎた6ラウンド2分47秒、チャンピオンの右カウンターに屈した仲里はKO負けし、3度目の世界挑戦もまた敗れたのである。
 一方のモンシプールは4回目の防衛となり、フランスのボクシング史上マルセル・ティルの8回、アナクレット・バンバの7回に次ぐ歴代3位の防衛回数となったのである。ファイター同士の打ち合いはチャンピオンに凱歌が上がったが、マルセイユのファンはサッカーが行われるベロドロームでは見ることのできない大スペクタクルに魅了された。敗れた仲里も万雷の拍手を受け、ベロドロームで日本関係者に浴びせられるブーイングもこの夜ばかりは完全に打ち消されたのである。(この項、終わり)

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