第537回 ラグビー・フランス代表100周年(3) エース乱調、笑顔なきアイルランド戦の勝利

■第2戦の相手は昨年3位のアイルランド

 100周年という節目の年を迎え、グランドスラム目指したフランス代表は初戦でスコットランドに足元を救われた。そのショックもさめやらぬ6日後の2月11日に第2戦がスタッド・ド・フランスで行われた。まさかの敗戦に気落ちするフランスのフィフティーンの相手はアイルランドである。本連載第261回でも2003年ワールドカップにおけるフランスとアイルランドの戦いを取り上げたが、2003年3月の6か国対抗では敗れているが、その後ワールドカップ、2004年、2005年の6か国対抗戦とフランスが3連勝中の相手である。昨年の順位はウェールズ、フランスに次ぐ3位、昨年6月には訪日していることから日本の皆様もその強さはよくご存知であろう。開幕戦ではイタリアに26-16と順当勝ちしている。

■WTBのクリストフ・ドミニシをFBで起用

 初戦を落としたフランスのベルナール・ラポルト監督は思い切った選手起用を行った。それは従来WTBを務めていたクリストフ・ドミニシをFBで起用する。ドミニシはWTBとしてこれまでテストマッチ48試合に出場しているが、49試合目で初めてFBを守ることになる。フランスのFBを紐解くとあまたの名選手が活躍してきた。クロード・ラカズ、セルジュ・ブランコ、ディディエ・カンベラベロ、ジャン・バプティスト・ラフォン、フィリップ・セラ、クリストフ・シャブローズなど人材の宝庫である。昨年の6か国対抗では代表にデビューしたジュリアン・ララーグがFBを務めていたが、WTBに転向、そしてスコットランド戦に出場したニコラ・ブルスクは後半に負傷のため退場する。したがってスコットランド戦でもWTBを務めていたドミニシが背番号15のジャージーを着ることになった。選手の戦術的入れ替えが認められるようになってから、ポリバランスという複数ポジションをこなす選手が重宝されるようになった。

■トライラッシュで大量リードを奪う

 6日前のマレーフィールドとは異なり、スタッド・ド・フランスは立錐の余地もない7万8000人の観衆が集まった。大観衆の支援を前にキックオフ直後からフランスは好発進した。3分に右WTBのオーレリアン・ルージェリ、8分にはFLのオリビエ・マーニュが2本目のトライ、18分にはCTBのダニエル・マルティー、さらに35分には左WTBのセドリック・エイマンがトライ、この他にSHでキッカーのジャン・バプティスト・エリサルドが1PG、3ゴールを決める活躍で前半だけで29点を入れる。一方のアイルランドは28分の1PGだけで、前半を終了した段階で29-3と大量のリードを奪って後半を迎える。
 後半に入ってもフランスの勢いは止まらなかった。45分にはエイマンがこの日自らの2本目となるトライで、エリサルドのゴールも成功、48分にはマルティーも2本目のトライを上げ、エリサルドのゴールによって2点追加、43-3と大差がつく。

■フレデリック・ミシャラクのキック不調、連続4トライを浴びる

 大差はついたものの試合内容的にはアイルランドのボール保持時間の方が長かった。トライラッシュに沸くフィフティーンの中で唯一さえない表情をしていた選手がいた。背番号10、SOのフレデリック・ミシャラクである。アイルランドのボール保持を可能ならしめたのは攻撃の起点であるミシャラクのミスキックがあまりにも多かったことによる。2003年のワールドカップでイングランドのジョニー・ウィルキンソンと人気を二分した北半球のスターは精彩を欠いたキックでファンを失望させる。40点差がついてからアイルランドは反撃する。57分にこの日最初のトライ、61分に2本目のトライ、66分に3本目のトライ、さらにトライ後のゴールは3本とも決まり、あっという間にスコアは43-24となり、射程距離に入る。見かねたフランス首脳陣はついにミシャラクの交代を決断、68分にミシャラクは背番号21のベンジャミン・ボイエに司令塔の座を譲る。ボイエはこれが代表デビューとなるが、新人のボイエに対する拍手はミシャラクへのブーイングでかき消された。地元でありながらも厳しい態度のパリの観客ならではの事象であろう。そしてボイエがピッチに入った直後の69分にアイルランドはゴールポスト真下にトライを決めて、ゴールも難なく成功、アイルランドはわずか12分の間に4トライ4ゴールと28点をあげ、12点差に迫ったのである。
 結局フランスは残り10分強を無失点に抑え、43-31と初勝利をあげたが、試合後に笑顔はなかったのである。(続く)

このページのTOPへ